第1284頁 センチュリオン・オリジン
「あ……」
エルフ族の魔法使いが放つ魔法によって私の胸が貫かれ、赤い鮮血が飛び散る。
センチュリオンの顔に血がかかり、私はようやくその状況を理解する。
これは、本気でまずい。
痛みが熱に変わり、制御不能となった身体が民家の屋根にぼとりと落ちる。
「浮遊、魔法……?」
「帝国が最近開発した足に取り付ける魔道具。これがあれば空を飛べる」
そう言いながら、魔法使いは杖先を私たちの方へ向けて再度魔法を準備する。
「けほ、こふっ……」
「ニンナ! 血が……ッ!」
「その魔法使いは長くない。本当は精霊を貫くつもりだったが、咄嗟に庇ったか」
「そんな、なんでそんなことしたんだよ! 精霊は死んでも眠れば生き返るんだよ……」
私の服をぎゅっと握り、センチュリオンは大粒の涙を流す。
「人間は死んだら死ぬんだよ……! 私なんかのために、ニンナが死ぬ必要は……」
「どうか……どうか、私なんかのためにとは言わないで。あなたは立派な子です、生きるべき子なんです」
視界がぼやけ、末端の感覚が徐々に失われていく中、私はセンチュリオンの頬へ手を伸ばし、そっと撫でた。
「数年前までは、私も精霊全てが悪だと思っていました……あの男性の言う通り、情が湧いてしまったようですね……」
「私、嬉しかったんだよ! 生まれてくることは悪じゃないって言ってくれて……その言葉、もっとたくさんの精霊に伝えて欲しいんだよ」
「は、は……それが出来たら、どれだけ良いか……。センチュリオン、私の大切な……」
ゆっくりと瞳を閉じ、私は意識を手放した。
全身が冷たい、でもなぜかセンチュリオンに触れている手だけは温かく感じる。
「ごめんなさい、フラ、ン……」
・・・・・
ニンナが気を失ってすぐ。
センチュリオンはニンナをその小さな体で抱えて、ありったけの力をニンナに託しながら[聖具製造課]の人間の方へ向かった。
全ての力を使い果たし、フラフラになりながら彼女は言う。
「お願い、なんだよ……この人を助けてあげて……」
「…………」
人類連合聖具開発課実行部隊、隊長テイナは少し悩んだ後小さくため息をついてそれを了承した。
「あなたを聖具開発工場へ連れていく。抵抗しないと約束してくれるなら、あなたの願いを責任を持って必ず叶える」
「抵抗する力なんて、どこにもないんだよ……」
・・・・・
どこからかうめき声が聞こえてくる薄気味悪い工場にて、睡眠ガスによって眠らされたセンチュリオンは気がつくと檻の中に入っていた。
目の前には数人の白衣を着た研究員と、ニンナを攻撃したアバンとテイナの二人がいる。
テイナが一歩前に出て、檻の中のセンチュリオンへ話しかける。
「例の女性は医者に見せて、なんとか一命を取り留めた。あなたの願いは叶えた」
「ああ、良かったんだよ……ありがとう」
「……あれを」
「はっ」
テイナの指示を受けて研究員が持ってきたのは、美しい白銀の装飾がなされた長杖だった。
「わあ、すっごく綺麗な杖……」
「命名するなら聖具センチュリオン。あなたの魂をこの杖の中に入れる」
「そっか……杖ってことは、ニンナが使ってくれると嬉しいな……」
「拒否はしないの、意外」
「だってそういう約束なんだよ。あなたは約束通りニンナを助けてくれた、だから私は抵抗せずに言うことを聞くんだよ」
「…………」
センチュリオンは知っている。
─────でも大丈夫なんだよ。死んだら会えなくなるけど、形とか思い出が残ってる間は、頭の中でいつでも会えるんだよ。
そうニンナに言ったのは、他ならぬ彼女なのだから。
「ありがとう」
センチュリオンは誰に向けてというわけでもなくただ静かにそう言って、杖に魂を捧げるのであった。




