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第1272頁 東の龍について

 その後、私とアンダルソンは文字通りシノギを削る戦いを繰り広げ、そして決着がつかないまま……。


「そこまで! ……あの、長いですお二人とも」


「……長いですか」


「長いです。特に時間制限は設けませんでしたが、両者ギリギリの戦い、そしてこんなに狭い戦場で一時間も戦うなんて」


 そう、私とアンダルソンの実力は奇しくも互角だったのだった。


「少し観察させていただきましたが、どういう訳かお二人の戦い方が凄く似ているような。気のせいなんかじゃありませんよね、カリンさん」


「っ……」


 重要なのはここが[本当の百年前]か[百年前を模した結界の中]なのか、だ。


 聖具を作り出すような技術だ、今更過去へ行くことが出来る、なんて言われても驚きはしない。


 ただ、ここで私が深く関わることで歴史を変えてしまう可能性がある。


「カリン……?」


「私は……本当にただの通行人です」

 

 聖具の再誕、これが始まる前にクリエイターという女性は「死なないでください」と言っていた。


 ここは慎重に行こう、百年後の人間だとバレて幽閉なんてされたら大変だ。


「逆に考えてよカルロッテ、私と同じくらい強い子がもう一人増えるってことだよ。例のあいつだってきっと……」


「先程から言っている、例のあいつとは一体?」


「東の洞窟にいる龍だよ。東って言ってもずーーーっと向こうの東ね」


「詳細は宿屋にて説明しますから、付いてきてください」


 カルロッテはそう言って、私たちに背中を向けて森の中を戻って行く。


「え、それって……私も一緒にいて良いと……?」


「別に居てはダメとは言っていません。あなたは十分過ぎる戦力です、信用は出来ませんが」


「ごめんねカリン、彼はああいう人間なんだよ……でも仲間には優しいから、これからきっと良くなるはずだよ」


「は、はは……ありがとうございます……」


 カルロッテ……私は彼が少し苦手だ、メガネ越しに睨まれるあの感覚がどうも慣れない。


 ただ五界奏団の一員で、その腕は確かだ。


 それに旧友ニンナの祖父と思えば、この苦手な感じも少しは和らぐ……はず。



・・・・・



 色々あって、私は当時の五界奏団としばらく行動を共にすることになった。


 祖母との決闘から三日、私は徐々にこの世界にも慣れて、上手く誤魔化して百年後の未来人であることを隠している。


 当然、まだ五界奏団なんて名前は無いし、彼らはまだ二人だ。


 会話の内容から、旅を始めて間もない頃だろう。


 五界奏団についての文献は意外にも少ない。


 なぜなら当時は何かを記録する余裕なんて無かっただろうし、仮に記録していても龍に焼き払われていたからだ。


 世界の英雄とされながら、その存在を知る人間は多くは無いのだ。


「東の洞窟にいる龍についてもう一度説明するね─────」


 現在地から東へ数キロ歩いたところにある街には、かつて観光名所とされていた巨大な洞窟がある。


 魔法石や鍾乳石が美しく、その洞窟には何故か魔物が寄り付かない、観光地にうってつけの場所だった。


 それから数年前、突如始まった戦争の影響でその洞窟にとある龍が住み着いてしまったのだとか。


 龍が振りまく魔分子の影響で魔物は増えるは、農作物は不作になるはで非常に困っている。


 だからまずは英雄への一歩として、この龍を退治しようということになったのだ。


 というわけで、洞窟最寄りの街まで移動だ。



 若い頃と年老いた頃、全く性格が違うカルロッテさん。


 彼の死因は現在不明ですが、百年近くずっとニンナの実家付近の洞窟にいたわけですから、誰かと久しぶりに会えて嬉しかったのはたしかです。


 ちなみに昔のカルロッテについては第546頁をどうぞ!

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