第1264頁 助けて、見逃して
「六時に一体、十時に三!」
「了解!」
時雨の鋭い声に反応して、カリンとスイレンが異形を断つ。
身体のほとんどが金属で攻撃が弾かれるが、接着面を断てば一撃で仕留めることが出来る。
「アテナ、一度防壁を展開! そのまま砕いて!」
「はい!」
大量に押し寄せる異形を一度アテナの防壁で受け止め、三秒間耐えた後に防壁を解除する。
いきなり壁が消えたことで異形たちは驚き、一瞬の隙が生まれる。
「シノノメ!」
「海神刀・滝昇!」
私たちを囲むように、怒涛の滝が足元から発生し、異形たちを打ち上げる。
打ち上がった残りは皆で一気に殲滅だ。
「ふぅ……案外上手く行くもんだね。流石だよみんな」
「何を言う、シグレの的確な指示あっての結果だ。それより皆、前方を」
遺跡の攻略を始めてから十分、私たちは最初にカリンたちが見つけた[明かりのある通路]に辿り着いた。
「……確かに先程の異形とは別の、少し変わった気配がしますね」
「……?」
「時雨、どうかした?」
首を傾げる時雨に私が問うと、彼女は頷いてニンナに指示を出した。
「ニンナ、光球を三時の方向にお願い出来る?」
「はい、構いませんが……」
聖属性魔法・光球は周囲を照らす球を出現させる魔法。
ニンナが呼び出した光球はふよふよと空間を漂い、三時の方向へ進んで行った。
すると。
「うわっ……!?」
辺りが薄暗かったので気が付かなかったが、そこには夥しい数の異形がおり、私たちの方をじっと見ていたのだ。
「隠れていたのか、海神刀・滝つ……」
「待って! よく考えて!」
「なんだシグレ、入り口付近では私たちのことを襲ってきたじゃないか」
技を放つ直前で止められたことで、少し不機嫌そうなシノノメ。
「戦いにこれ以上長けている人はいないってくらい、今の世界でシノノメは強いんでしょ? なのにどうしてこの子達のこと、気が付かなかったの?」
「……敵意がない、のか?」
確かにそうだ。
かつての人類最強ともなれば、気配だけでおおよその位置を把握することは可能のはず。
今回は敵探知に秀でた時雨がいたから気づけたが、彼女がいなければ誰も気が付かなかっただろう。
それもそのはず、彼らは敵意を消して暗闇に身を潜めていたからだ。
『助け……て、見逃し……て』
「あ……」
フレデリカが取り乱していたのはこれか。
今度は刀に少年の上半身がくっついたような異形だ。
それ以外にも、猫と兜の異形、少女と槍の異形、人の腕と指輪なんてものもある。
あまりにも悍ましい、ホムンクルスなんて比じゃないぞ。
私も正直、見ているだけで辛い。
「殺しはしないよ、少し話を聞いても良いかな?」
誰よりも先に出たのは、鍛治士のポカだ。
「君たちはどうしてそんな姿になってしまったんだい?」
『光……機械……めい、れい……』
「命令……? 一体誰からの……」
『人類側の……兵器、作る人間……』
異形のその言葉を聞いて、ポカは強く舌打ちをし、歯を食いしばった。
「ニンナ言ってたよね。この遺跡の前で、精霊みたいな気配がたくさんするって」
「ええ、はい……それが何か……?」
「彼らだよ。それは彼らの気配だ」
「何ポカ、異形たちの正体がわかったの?」
皆の視線がポカに集まる。
「百年前、人類は龍に対抗するため聖具という兵器を作った。彼らはその聖具の失敗作、いや……聖具の[成れの果て]だ」




