第1261頁 鉄の体に肉の頭
山の中を進んでいくと、崩れた遺跡のようなものが見えてきた。
明らかに人工物のその遺跡には幾何学的な紋様や五芒星など不気味な印が刻まれており、私たちは思わず息を呑む。
「ここが……」
「もう数十年は人が踏み入った形跡がない。メタリカ、ここで間違いないか?」
「私に聞かれても困る。が、少なくとも現代の技術ではこのような奇妙な形の遺跡を作るのは困難だろう」
「作るのが困難な建物なのに、メタリカが把握してないってことは間違いなさそう─────」
その瞬間、前方の遺跡の方から目を疑うような異形の生物が押し寄せてくる。
『……!!』『ア、ア……!』
「ひっ!? 何あれ、どうなってるの!?」
押し寄せてきたのは[腕の鎧に狼の頭]が付けられたような、エルメスが怯えるのも頷ける異形だ。
他にも胴の鎧に牛の脚が一本の異形や、剣にコウモリの両翼が付けられた異形もいる。
「威勢が良いのは良いこと! フレイマギア・彼岸花!」
いち早く動いたのは時雨、次点でシノノメ。
彼女達の咄嗟の判断により、異形に攻撃されることなく鎮圧することができた、が……。
「……」
メタリカは姿勢を低くして、動かなくなった異形を観察する。
「付けられたと言っても、釘で打たれたり、縫い付けられているわけではない。この接合部は……ふむ、溶接に近い」
「溶接ってことは、鉄が溶けて魔物の頭に引っ付いちゃったってこと?」
「いや、逆だ。魔物の頭が溶けて、鉄に引っ付いている」
「待ってよ、魔物の頭が溶けるってどういう状況? そんなこと可能なの?」
ありえない状況と謎に困惑する一同。
そんな中、エルメスのクラウソラスが異様な反応を見せていた。
「どうしたのクラウソラス、あなた今までこんなことなかったのに……」
「何かあったの?」
「ああ、うん……思う通りに動いてくれないというか、彼がすごく取り乱してるみたいで」
鎧と溶け合った魔物、鎧に意識がある機腕の不調……偶然、ではないよね。
「不明点が多すぎる状態で思考するのは危険だ。変な憶測で話が進めば、違った場合の修正が難しくなる。先へ進もう、斥候は誰がやる?」
メタリカの言う通りだ、流石は頭脳派。
「無論、私です。私に行かせてください」
名乗りを上げたのは、今まで静かだった風の剣の持ち主カリン・アンダルソンだ。
彼女はアンブレル騎士団で斥候隊長を務めていることもあって、彼女が適任だと言うことですぐに選ばれた。
しかし彼女一人で行かせるのは不安なため、私と情報共有ができてかつ戦闘に長けたフレデリカに行ってもらうことになった。
「よろしくね、何かあればすぐに教えてね。受け取れるように集中してるから」
「もちろんです! 私のお師匠様に対する愛情があれば世界の裏側に居たって届けられますよ!」
ドーンと胸をはるフレデリカは特に心強い。
カリンもヴァイシュ・ガーデンではかなり腕のある剣士らしく、その実力は紗友理のお墨付き。
なんでも紗友理と王都決戦で戦った仲間の一人なのだから、実力は信用できる。
遺跡の中へ入っていくカリン&フレデリカを見送り、私たちは遺跡の前でキャンプを設営した。
ひとまずは二人が帰ってくるまで待機だ。




