第1258頁 聖杖と土槍
これは聖具の再誕についての手がかりがある山へ向かう前の話。
早朝の更に早朝、日はまだ昇っておらず、誰がどう見てもまだ夜というような時間にニンナは目を覚ました。
「見ていてください、大魔道士カルロッテ。あなたの孫である私が、必ずや聖具の再誕を果たしてみせます」
夜の暗闇の中でも、光の杖センチュリオンは若干輝いて見える。
杖自体が発光しているのか、センチュリオンに寄ってきた魔分子が発光しているのか。
どちらにせよ、ニンナはこの明かりを気に入っている。
明るすぎず、それでいて暗すぎない。
「フラン……必ずあなたともう一度……」
彼女のことを想いながら杖を力強く握っていると、ニンナの枕元に寝ていた使い魔ピピが小さく鳴いた。
使い魔のピピとももう長い。
ピピは自由に年齢や体格を変えられる翼竜で、今は赤ん坊の状態だ。
というか戦闘時以外は基本この体格になっている。
「ああ、すみません……起こしてしまいましたか」
『きゅぅ……』
翼竜の喉を軽く掻き、ニンナは支度を始める。
世界一の工場メタリカ・アイアンワークスには、来賓用の部屋があり、現在一行はそちらの宿に宿泊中だ。
同室のポカとカリンを起こさないようにそっと部屋を出て、ニンナは廊下を進む。
早起きは銅貨三枚の徳とは言うが、今回に限っては早起きによる寝不足のデメリットの方が大きいと思う。
「あれは……」
欠伸をしながら廊下を進んでいると、辺りをキョロキョロと見渡しながら歩くエルメスを見つける。
静紅たちと行動を共にするようになり、エルメスと接することも増えてきたのだが、彼女の精神年齢は実年齢に比べて少し低く思える。
確かもうすぐ十七歳で、本当なら思春期の最中なのだろうが、彼女は静紅にベッタリだ。
「あっ、ニンナさん……おはようございま……ふわあ」
「ふふ、まだ眠いなら寝ていた方が良いで……ふわあ」
「あはは、ニンナさんこそ」
「むぅ……私は良いんです」
「ええ、どうして?」
首を傾げるエルメスに、ニンナは必死に言い訳を探して。
「お、大人の……お姉さんですから」
胸を張るニンナを見てエルメスは手を打つ。
「なるほど! 私はまだ十六歳で、ニンナさんは二十……」
「い、言わないでください……! はあ、眠くないなら構いません、良い機会ですしお話でもしませんか?」
精神年齢が低いというか、無邪気というか、子供らしいというか。
「あっ、深夜のお茶会ですね……そういうことなら、良い飲み物を知ってます」
「へえ、ではお願いしましょうか」
「ふふん、お任せ下さい! 深夜の喫茶・エルメスの開店ですよ!」
ふんす、と鼻息を漏らすエルメスを見て、ニンナは存在しないはずの母性が芽生え、静かに戸惑うのであった。
ちなみに王都決戦でストーリア王を倒した時、紗友里や凪咲、ニンナは十六歳でした。




