第1257頁 悪い子になりました
「ふぅ……お風呂空いたよ、明日は早いらしいからすぐ入っちゃって」
「凄かったよ、ジャグジーだよジャグジー! 泡がね、ぶくぶーくってね!」
体全体でその凄さを表現するエルメス。
非常に可愛い。
「そうですかそうですかあ……お師匠様とお風呂に入るという私のポジションを奪った感想は……そうですかあ」
「やめなよフレデリカ、みっともない」
「みっともない!? 今みっともないと言いましたね! 私がこんなにもお師匠様のことを想──────」
「べー、だ」
私の陰に隠れて、フレデリカに向けてエルメスは舌を出す。
「ああっ!? エルメスさん、お師匠様のことは取らないって約束じゃ……」
「そうだっけ? 忘れちゃった。ほらほら、早くお風呂入らないと後ろがつかえてるんだから」
エルメスは悪い子になったようです。
約束を破られてショックを受けるフレデリカは、私に自分の体を自慢することもなく、静かにお風呂へ入っていった。
「エルメスさんは本当にお母さんっ子ですね」
「だねー、微笑ましいよ」
部屋で一連の流れを見ていたニンナと時雨がそんな感想を漏らす中、天井の通気口から物音が聞こえた。
「ん……?」
不信感を覚えた私が能力で通気口の蓋を開くと、蓋に体重をかけていたのか[メタリカ]が上から落ちてきたのだ。
「きゃあああっ! 不審者!!」
「落ち着け、私だ」
「にしても不審者だよ。ドアって知ってる? 部屋の入り口にあるんだけど」
「たまたま通気口の掃除をしていたんだ。長らく掃除してなかったから」
嘘だ、掃除なら二日前にエルメスのクラウソラスがやってくれた。
こんな真顔で言うものだから、一瞬信じてしまいそうになる。
「はあ……はいはい、で要件は?」
「ん」
メタリカの可愛らしいポーチから取り出されたのは、目を疑うものだった。
黒曜色の長方形の箱に、アンテナのような細い棒が伸びている機械……トランシーバーだ。
・・・・・
魔法人形のアテナ&ヘスティアは完全に修復され、花の蜜も回収できた。
というわけで、この国でやるべきことは残り一つだ。
五界奏団が握っていた五つの武器は百年という長い年月により力を失ってしまった。
それを覚醒させるため、今から私たちは国の端の方にあるとある山へ向かう。
「シノノメ、スイレン、それと……」
「カリンです、カリン・アンダルソン」
「ああっ! アンブレル騎士団の!」
エーテルを国に連れ帰った時の会議に居た人だ。
メロディアム・ウェポンを持ってる人の中だとカリンが一番関係が薄いんだよね、これを機会に仲良くなろう。
出発は早朝、エルメス、ニンナはまだ眠気まなこだ。
私も眠い。
「最寄り駅までは列車、それからは徒歩になる。私のおんぶは頼んだぞ」
「お前は相変わらずだな……」
そう言いつつ、シノノメは片腕でメタリカのことを背負った。
メンバーは私たち五人に加えて、ポカ、メタリカ、シノノメ、スイレン、カリンだ。
激化する教団との戦いに備えるためいざ、聖具の再誕へ!
これより本題である[聖具の再誕]編が始まります!




