第1256頁 盾と槍
メタリカ・アイアンワークスの工房の一室にて。
「うん、こんなもんかな。かなり破損しててツギハギだけど」
油まみれのグローブで汗を脱ぐうポカは、片手で持てないほどの重量の大盾を持ち上げると、三又の槍の隣に置いた。
「人形の方も整備完了だ。全く、苦労させる……」
「彼女の面倒を見るならこれ以上の苦労も覚悟しておいた方が良いよ。彼女にはトラブルを寄せ集める力があるからさ」
「ハッ、望むところだ。少なくとも暇はしないだろう」
二人の技術者がそう言って笑う中、工房の扉が開かれる。
「おお、出来たぞちょうど。確認してくれ」
急いで工房の中を歩き、ちょこんとテーブルの上に座らされた魔法人形を恐る恐る手で触れる。
「あ、ああ……」
マクロアルに回収された時は、もう会えないかと思った。
全身が黒焦げで、体も半分以上が吹き飛んでいて、見るも無惨な状態だった。
それが今は。
「まるで店で出会ったあの日みたい……懐かしい……ありがとう、二人とも!」
「修理している途中、女の声でご主人様、ご主人様ってうるさかったぞ。さっさと会ってやれ」
ガウストはそう言って私の背中を叩く。
皆が見守る中、私はアテナとヘスティアの両方を持ち上げ、胸の前で祈るように持った。
「おかえり、二人とも。また無茶させちゃうかもしれないけど、よろしくね」
どこからともなく光が溢れ、そして。
「ただいま! ですわあー!!」
「ただいまです、シズク様!」
「どわっ!? いたいいたい、二人ともは重たいって!!」
飛びついてきたのは髪の長い金髪の女性、そして同じく金髪の青年だ。
「……私が気を失っている間、二人が居てくれたから被害は抑えられたと思う。私たちにとっての最悪は、あそこで全滅していたこと。だから、ここにいないみんなの分も含めてありがとうって言わせて」
「私たちだって自分が可愛いですから、命を投げ打つのは躊躇いましたわ! でも信じていましたの。ご主人様ならきっと私たちを治してくださるって」
「たちって言ってるけどね、僕は姉さんに脅されて……」
「何か言った? ヘスティア」
「いたたたっ、姉さん! 腕、腕掴まないでええ! いたいいたい!」
「あははっ、理由や動悸がどうであれ、救われたのは事実! 本当にありがとう!」
頭を下げる私をみて、二人は顔を見合わせて。
「「どういたしまして、ご主人様」」
「すぅ……」
「「すう?」」
ひとしきり感謝したところで、私は肺いっぱいに空気を取り込んで。
「うわあああああん! よかったあ、よかったよおおおおおおおお!!! おかえりいいいいいいいい!!」
工場の雑音にも負けない大声で、私は数分間号泣するのであった。
・・・・・
「来たか」
メタリカはその気配を察知し、作業机に道具を置いた。
工場の外に出ると、そこには他でもない泡沫姫シノノメ、その付き添い人スイレン、そしてアンブレル騎士団の剣士カリンが立っていた。
「準備は出来ているか?」
「明日にでも出発できる。これで初めて[五つ]揃ったな」
カリンが持つ風の剣、ニンナの持つ光の杖、エルメスの持つ土の槍、時雨の持つ炎の弓、シノノメの持つ水の刀。
かつての英雄が持つ武器が、百年越しに初めて一堂に会する。
ピンと張り詰めた運命の糸が、とくんとくんと脈動を始めた。
アテナとヘスティア。
登場当時は「静紅の能力=物が動く=ポルターガイスト=人形」みたいな感じで登場しましたが、まさかここまで重要なキャラクターになるとは!
そしてちょうど魔法人形の二人が登場して1200話くらい (初登場は54頁)で復活です!




