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第1252頁 皆が笑っていられるほど


 アルトリアを失った二人に笑顔の気配は無い。


 かつては厨二病のように馬鹿みたいな大声で笑っていたルリも、今ではティアの手を強く握ったまま心無しか俯き加減だ。


 ティアはというと、アルトリアを失ったことによるトラウマで[ルリが視界から外れる]だけで自然と涙が出てくるようになっていた。


 だからティアはルリの手を強く握るし、ルリもそれを受け入れて握り返している。


「おや、おやおや、誰かと思えば半龍族のお兄さんお姉さん! 龍に関しては個人的な興味があるので、お二人のこともよーく存じてます!」


 工房の奥から出てきたのは、ドワーフなのに背の高い女性の技術者だ。


「こほん、ようこそアヴェリナ工房へ! 店主の私が誠心誠意、真心と丹精を込めてお客さんに最高の相棒をお贈りいたしまーす!」


「我たちのことを知っているのなら話は早い。ティアの力を抑える道具を作って欲しい」


 無理やりあげたテンションで客を迎えたアヴェリナだが、余裕の無い二人が反応することはなく、ルリが淡々と要件を話し始めた。


「聞いていた話とは少し違いますが……ここにいらっしゃるお客さんは皆ワケアリですからね。深く詮索はしませんよ」


 そう言いながらアヴェリナは胸の谷間から見積書を取り出し、己の技術と相談しながら請求する額を定めていく。


「龍の力を封じ込める力、となると相当なものですからねえ。半端な技術じゃむしろ増幅させてしまうでしょうし、諸々のリスクも込みでこの価格でどうでしょう!」


「……払えなくはない金額だが……」


 予想以上の額にルリは少し悩もうとするが、彼が悩むよりも先にティアが彼の手を強く握った。


「そうだよな、金額どうこうじゃない。金ならある、最大限の技術でとっておきのものを作ってくれ」


「これは願ってもない収入チャンスです! 本来龍の力を封じるのは[巫女]クラスのお仕事、それを鍛治の技術で代用しようなんて、とんだ罰当たりです。良いでしょう、私の持てる全てを使ってあなただけの道具を作って見せましょう!」


 アヴェリナの言葉に、ティアはぎこちなく笑う。


「何が要る? 我たちは半龍族、人間がいけないような場所でも探索可能だ」


「世界中飛び回ることになるけど……構いませんね?」


「……覚悟の上だ」


 鍛治においての不可能は主に二種類に分けられる。


 一つ目は技術面での不可能。


 二つ目は素材面での不可能。


 アヴェリナの技術は国内トップクラスで申し分ない。


 あとは素材さえあれば[巫女]の力を代用できる。


 その後の数日、ルリとティアは文字通り世界中を高速で飛び回り、アヴェリナが指定した素材をかき集め、再び工房を訪れた。


「ありがとう二人とも、二人が働いてくれている間に[枠]は作っておきました! あとはこの鉱石たちをまとめて加工すれば……なんですが、その加工には専用の道具が必要で……」


「ならそれも取ってくる、どこにあるんだ?」


「一番近いのはメタリカ・アイアンワークスにあるやつです。それを手に入れるためには工場に不法侵入しないといけませんが」


 話を聞くに、かなり硬度の高いものでも加工が可能な道具で貴重なため厳重に保管されているのだとか。


 一般的にはメタリカ・アイアンワークスに依頼して加工してもらうのだが、龍の力を抑えるため……なんて依頼、受けてもらえるわけがない。


「ティアが無事でいられるためなら、手段を選んではいられない。盗みでも何でもしてやろう」


「は、ハハ……あなたのお嫁さんに対する執着が、一層どころか三層くらい深くなっていますね。では準備をしますので、少々お待ちください」


 盗みでも何でもしてやろう、と言ってしまった自分に驚きつつも、ティアを守るためならとルリは強く拳を握る。


 後戻りはできない、非常事態なのだ。


 もう皆で笑っていられるほど、世界は平和じゃないのだ。


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