第1243頁 干し草がなーい!
「無い、無い無い無い! 干し草がなああああああああいッ!!!」
そして時は現在に戻る。
王都の郊外までやってきた時雨、エルメス、ニンナ、ポカの四人は干し草を求めて近くの牧場を訪ねていた。
しかし彼女たちは忘れていた。
ここは効率重視の超近代国家であることを。
とある牧場では。
「ないね」
「両手で掴めるくらいで良いんです、分けていただけませんか?」
ニンナが丁寧に頼むが、牧場の主は静かに首を横に振る。
「干し草なんて何年も前に処分してしまったよ、他の牧場を当たってくれ」
またある牧場では。
「申し訳ないけれど、きっとどの牧場でももう干し草なんて使ってないと思うなあ。調製に時間はかかるし、散らかるしで効率悪いんだよ」
一般的に干し草は家畜たちの飼料として使われるらしいが、この国には既に干し草に置き換わる優れた飼料が普及していた。
干し草を作るにはそもそも草を生やす広大な土地が必要なため、至る所に工場が並ぶこの国とは相性が悪いのだ。
「だからこの柔らかいブロック状の飼料を使っているのですね」
「仮に干し草があっても燃料にしちゃうから、干し草探しは諦めた方が良いね」
複数の牧場を訪ねてみたが、結果はどこも同じだった。
そして一行は、この辺りで最後の牧場にやってきた。
「干し草? ああ、今は無いね」
「やっぱり無いかあ……」
手をついて地面に倒れる時雨。
他の三人も同じ気持ちだ、ここまでたくさんの牧場を訪ねたが、まさかひとかけらも干し草を貰えないとは。
うおんうおんと泣く時雨に対して、牧場の主は顔を上げさせて苦笑する。
「寝具にする用なら、干し草でなくても良いでしょう」
「と、言いますと……?」
「この牧場の裏に小さな山があります。そこに入れば枯れ草くらいいくらでも手に入るでしょう」
「枯れ草……枯れ草か。うん、確かに干し草の代用にはなるかも。ありがとう、早速山に向かってみるよ」
出ていく四人の背中を見て、牧場の主は何かを思い出したように言う。
「ああ、君たちは強いから大丈夫だと思うけれど、山には化け物が出るって噂だから気をつけてね」
「ひぇ!? ば、化け物……!?」
「おおかた凶暴化した魔物でしょう、心配する必要はありませんよ」
怯えるエルメスを宥めつつ、皆は牧場の主に示された小さな山へ入っていくのであった。
・・・・・
「いいねえ、じゃんじゃん集めていこう!」
山に入ってすぐ、歩くまでもなく大量の枯れ草が足元に落ちていることに気がついた。
ニンナは白銀の騎士たちを召喚し、山の入り口の方へどんどん枯れ草を集めていく。
あとで荷車を借りてこよう、なんて話しながら枯れ草を集める中、ポカは一人難しそうな顔をしていた。
「どうしたの、ポカさん」
「呼び捨てで構わないよ。いやなに、私も生物学者じゃ無いから分からないけれど、ここまで枯れ草が残っているのに違和感を覚えてね」
「違和感? まあ確かに、他の森と比べて枯れ草が残ってるなあとは思ったけど。分解者……だっけ、土の中の小さな虫たちが枯れ草を食べて、枯れ草を減らすはずだよね」
小さな虫たち、いわゆる分解者だけでなく周囲に一切の生物の気配を感じない時雨は、ふと無意識に炎弓フレイマギアを構えた。
そして次の瞬間、薄暗い山の奥の方にフレイマギアを向けて、炎の矢をつがえてその方向を睨む。
「誰……ッ!?」




