第1239頁 これは私の自由意志
クリエイターが食堂に戻るより、少し前のこと。
フレデリカにメモを渡された彼女は、その内容を読みながら近くの店に足を運んでいた。
「材料的にカレーでしょうか……知識としては知っていますが、実際に食べたことはありませんね」
そんなことを呟きながら歩いていると、突然背後から声をかけられる。
「珍しいわね、それとも気が変わったのかしら? 前までのあなたなら、絶対お使いなんて行かなかったのに」
「ぐっ……この世で一番会いたくない人間とエンカウントするとは……」
顔を引き攣らせながら振り返ると、そこには桃色の長髪の美人女性が立っている。
傲慢の成れの果てペルソナリテことペルソナだ。
彼女は笑顔でこちらに手をヒラヒラと振っているが、クリエイターは全くそんな気分ではない。
「本当に久しぶりね、あの時どうして逃げ出したの? ちゃんと部屋の鍵はかけておいたはずなのに……」
「分かりませんか。鍵をかけて私を監禁するからですよ! いくらワールド・シリーズがあなたたち成れの果ての仕事をサポートするために作られたからと言って、休息なしで永遠に仕事をさせるのは非人道的です」
「非人道的もなにも、そもそも作られたんだから人ですらないのに」
「あなたって人は本当に……悪気なくそんなことを言えるから、成れの果ての中でも一番の狂人なんですよ」
いつの間にか伸びていた背筋もため息と共に曲がり、嫌そうな顔をしながらクリエイターはペルソナと歩く。
「お使いに行ってあげるなんて、やっぱりシズクのこと気に入ってるんだ?」
「はい、まあ。時々弱い面を見せますが、決意も固く彼女の周囲に集まる人間も皆、優れた方が多い……特異点と呼ばれる所以が滲み出ている、そんな人間です」
「へえ、てっきりたまたま用事が無かっただけですってはぐらかすかと思ったのに。そこまで言わせるってことは、相当気に入ってるんだね。
「二度目の厄災が近い。私が命を削って眠らず作ったこの世界を、妙な教団などに破壊させてたまるかって話ですよ」
「あはは、ニアも同じこと言ってた」
「何があははですか。元はと言えばあなたが仕事を押し付けて……!」
むきいっ、と歯軋りをするクリエイターの鼻先を軽く人差し指で押さえ、ペルソナはいつも以上に真面目な顔で言った。
「世界に大きな転機が訪れようとしてる。実際、その準備は着々と進み、ほぼほぼ完成しているわ。私はシズクに最大限協力するつもりよ。だからあなたも……」
「あなた[も]と言うのはいつまでたってもあなたの下で働いているようで癪ですね。私は私の自由意志で彼女に協力します」
「つれない子」
「[生物のデザイン]に関しては私の方が権限が上ですがね」




