第1233頁 万象の造物主
「ペラペラと話すのは大変よろしいことですが、その余裕があるならトントン拍子で工事を進めてくださいな。ああええ、満足いくまで話していただいて構いませんよ。その代わり、キッチリその分の残業をして頂きますが」
「「げっ」」
男二人はその声を聞いて、引きつった顔で声を漏らす。
言葉を交わさなくても分かる。
この佇まい、大量の資料、嫌味を含んだ言い方……この人、面倒くさい人だ!
・・・・・
私たちの前に現れたのはいかにも秘書っぽいスーツを着た女性だ。
女性はドワーフの男たちを現場に戻しながら、私たちの方をちらっと見た。
「一般人がここに居られては困ります。さっさと去ってくださいな。二度と会うことは無いでしょうけれど」
そそくさとその場を去ろうとする女性に、ニンナとフレデリカが疑問を抱き、ニンナが先に声をかけた。
「私たちは一般人ではありません。シズクさん、メタリカ様から頂いた面会証を」
「ああ、うん」
エーテルの一件の後、私は各国の王から[アポ無しで面会できる券]を貰った。
実はそこにメタリカから送られたものもあり、しっかりとカバンの中に仕舞っていたのだ。
「ふむ……確かに一般人では無さそうですね。しかし王に現場監督を任されているのはこの私、リエイですので」
リエイと名乗るその女性。
名前を聞いたその瞬間、何故か全身の産毛が逆立った。
「母さん……この人ケチだよ……」
耳打ちをするようにエルメスは言うが、リエイは相当耳が良いらしく。
「ケチで悪かったですね。さあ、帰った帰った」
聞く耳を持たないリエイに対して、私は隙をついて彼女に[キノコタン・ナイフを飛ばした]。
すると彼女は一般的な秘書では考えられない反応スピードでナイフを察知し、その刃を指で挟んで制止させた。
「なっ……!? 母さん、いくらケチだからって刺すのはダメだよ!」
「ダメなものはダメって言えて母さん嬉しい! でもエルメス、この人は秘書なんかじゃない。なんなら人間でもない」
睨みつける私の視線を見て、事の重大さに気付いた一行は各々戦闘態勢をとる。
「流石は特異点、認識阻害を無視して察知出来るとは流石ですね。ああええ、褒めていますとも。あなたのおかげで私のスローライフが台無しですがね」
小さく舌打ちをするリエイが、ナイフの刃から指を離そうとした次の瞬間。
突如ナイフが小刻みに震えだし、そして大きな声が聞こえてきた。
『ああッ!! あんたこんなところに居たのね、勝手に逃げ出して何やってるのかと思ったら! まさかあんたが人間の真似事とは!!』
「げっ……」
ナイフから聞こえてくるペルソナの声に対して、あからさまに嫌そうな顔をする彼女。
「人間の真似事……ということはやっぱりあなたは人間では無いのですね。正体を明かしなさい!」
大剣の剣先を向けられたリエイはまたしても嫌そうな顔で、フレデリカの問いに答えようと口を開く。
が、それよりも先に少々興奮気味のペルソナが答えた。
『この子の名前はクリエイター。詳細は後で話すけれど、私の弟子ね。突然消えたから心配してたのよ』
「私のセリフッ!? ちっ、そういうところが嫌いなんですよ……」
「クリエイター……どうしてリエイと偽名を使っていたんですか?」
「フッ、真ん中の三文字なので偽名もクソもありませんがね」
「決まってる。[ワールド・シリーズ]としての素性を隠すためでしょ」
「「「!?」」」
周囲に緊迫した空気が流れる。
突如私たちは敵対勢力であるワールド・シリーズと相対した。
相対してしまった。
魔法人形が使えないこの状況で、私の戦力は無いに等しい。
クリエイターがどう動くのか警戒し、皆が彼女を睨みつける中、ナイフでの電話越しのペルソナだけが嬉々としてクリエイターに話しかけているのであった。
クリエイターさん、実は981頁や864頁でちょこちょこ出てきてます。




