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第1215頁 駆け行く道には桜咲く


 刀をくるりと持ち直し、大猿の首元をロックオンしたスイレン。


 国民を飢餓に陥れた恨み、故郷を壊された悲しみ、そしてシノノメの腕を喰いちぎった怒り。


 カーソルノイツという組織に抱いた全ての悪感情を一撃に乗せて、スイレンは斬撃を放つ!


「彗星刀・一閃ッ!」


 彼女の放った一閃は大猿の首をはね、その巨体は地に倒れた。


「まずっ、落ちる……!」


 大猿の体が倒れる寸前、足元が大きく揺れたためスイレンは足を滑らせ、地上へ落ちていく。


 それを旋律兵装ソプラノを展開したターボが受け止め、二人は無事に着地する。


 胸を撫で下ろす二人。


 しかしスイレンは、大猿があまりにも強敵すぎて忘れていた。


 たとえ首をはねたからと言って、確実に相手が死ぬわけではない。


 首が無くたって動ける魔物は少なくない、喜ぶのは相手の死を確認してからだ、ということを。


「「……ッ!」」


 ターボとスイレンが振り返ると、そこには拳を握りしめた首のない大猿がおり、今にもこちらに向けてパンチを繰り出そうとしているところだった。


「まだ死んでいない……!?」


「なんなんだよ、コイツ……!」


 回避する時間は残されていない、迫り来る拳をただ見ることしか出来ない二人。


 その時だった。


「─────、──────────ッ!!」


 シノノメが腕を喰われた場所から[ナニカ]が飛んでくる。


 それは何と海神刀だった。


 持ち主のシノノメは後方で治療を受けている。


 ダリアに強制的に移動させられた際、刀を地面に置きっぱなしにしていたようだ。


「海神刀……どうして一人でに……」


「なんだ、あの桃髪でも居るのか!?」


 飛来した海神刀は、自分の意思で大猿の腕を斬り捨てた。


 スイレンの刀ですら擦り傷しかつかなかった硬い皮はもちろん、肉、骨ごと斬った海神刀。


 ソレはそのまま自ら空を泳いで移動し、大猿の心臓を貫いた。


「な、何が起きて……」


「とにかく無事で良かった。刀を回収して早く逃げよう、また起き上がったら大変だぞ」


 二人は大猿の胸に突き刺さった海神刀を引き抜き、シノノメとダリアの方へ逃げていった。


 結局、それ以降大猿が起き上がることは無く、気がついた時には四人は[ワダツミ神宮]へと戻ってきていた。


 一人でに動いた海神刀、あれは一体何だったのだろうか。


 新たな謎を残しつつ、大猿ヒガン戦は彼女たちの勝利となった。



・・・・・


「ありがとうございました、お二人とも。あなたたちがいなければ私は……私たちは間違いなく死んでいたでしょう」


「それはこっちのセリフだ。元々敵討のために一人で倒そうとしていたからな。ダリアの瞬間移動でも脱出できないとなると、やっぱり二人の力が必要だった」


 お互いに礼を言い合うスイレンとターボは、しかし握手は交わさない。


 片や人類最強の付き添い人、片や世紀の犯罪者。


 だから握手の代わりに笑みを交わしたのだ。


「腕、応急処置はしたけど、すぐに医者に診てもらった方が良い」


「ありがとうございます。では病院へ急ぎますね」


 ダリアにも礼を言って、気絶したシノノメを背負い直した彼女は都の病院へ急いだ。


「あ、そうだ、せめて応急処置のお礼だけでも……」


 そう言って財布に手を伸ばしながら振り返るが、既に二人はいなかった。


「まったく、忙しない方達です……さて、急がないと……」



・・・・・



 瞬間移動で彼女たちの基地[テンポプリモ]へ戻ってきたターボ&ダリアは、リビングのテーブルで昼食を向かい合って食べていた。


「結局、弟と妹を殺した理由はわかったの?」


「ああ、教えてもらった」


 大猿に突き刺さった刀を抜いた時、スイレンが先に大猿の身体から降りてシノノメの方へ急いだ。


 スイレンの後を追おうとターボも振り返ったが、大猿の胸から声が聞こえてきて足を止めた。


─────理由、殺した、理由……指示、命令……ジャッジメント様から……。


「ジャッジメントって、例の教団を率いてる……」


「ああ、多分な。スイレンがカーソルノイツとオラシオン教団は関係が深いって言ってたし、間違いないと思う」


「じゃあ、どうしてジャッジメントはターボの弟たちを殺せって命令したの」


「さあな、それは本人に聞く必要がありそうだ」


 ターボは昼食のソーセージをフォークで突き刺し、口へ運んだ。


 新たな目的を見つけた彼女は、これからも弟妹の仇のために駆けていく─────。




 一人でに動く海神刀、腕を失ったシノノメ……今章のエンディングが次回から始まります!

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