第1214頁 彗星一閃
「あああああああああッ!!!」
骨折の痛みどころじゃない。
彼女は利き腕を噛みちぎられ、血を吹き出しながら地面に蹲る。
蹲るシノノメの隣に飛んできたのは、瞬間移動を使ったダリアだった。
ダリアはシノノメの背中に触れ、戦地から離れた場所へ強制的に移動させる。
「あなたを見殺しにすれば[人類最強]という一番の脅威が居なくなる。でも……あなたをここで見殺しにすれば、スイレンに殺されると思う。だから……悔しいけど」
ダリアは応急処置の心得があり、荷物の中から治療キットを取り出し足元に広げると、痛みで気を失ったシノノメの応急処置を始めた。
「行けますか、ターボさん」
「ああ、助かった!」
シノノメが応戦している間、スイレンはターボのオーバーヒートした脚を診ていた。
自身の体の一部を水に変えて脚のエンジンを冷却することで、オーバーヒートを一時的に脱したのだ。
「まさかあなたと二人で共闘する時が来るとは。行きましょう、初撃は任せましたよ」
「弟たちの仇、まだ取れてないからな。十年以上抱えたこのモヤモヤ、晴らさせてもらうぞ」
ターボは脚に身につけた真紅の靴の踵を打ち鳴らし、力強く地面を踏みつける。
赤熱の荒野を照らす二脚の閃光。
「旋律兵装・ソプラノ! 私の我儘に付き合ってくれ!!」
燃え盛るようなターボの気持ちとリンクして、旋律兵装の形が変わる。
装甲はさらに硬く、マフラーはさらに太く、吹き出す炎は火炎放射器のように。
ターボの心臓の鼓動が早くなり、彼女を除いた世界の全てがスローモーションに映る。
『グオオオオン!!』
大猿はターボの様子が変わったのを察知して、威嚇の咆哮を放つ。
それをもろともせず、ターボは駆け出し、大きな口を開く猿の顎を蹴り上げた。
「速い……!」
ターボの後を追って走るスイレンも、彼女の数秒後に大猿の足元に到着。
細く息を吐きながら残った彗星刀を両手で握り、大猿の脚を斬りつけた。
『グオッ……?』
「得意なんです、昔から。相手の関節に打ち込み、行動不能にさせるのが」
シノノメと出会って以降、力だけではどうにも出来ないと悟ったスイレンは関節や弱点を狙う戦い方を身につけた。
剣の試合ではグレーゾーンの戦い方だが、命の取り引きをする実戦では関係ない。
右膝裏の関節を斬られた大猿は、右脚を地につけて蹲る。
『グオオアア!!』
焦ったのか、隙の大きいパンチを繰り出してくる大猿。
タイミングを見て大猿の腕に飛び乗ったスイレンは、腕に刀を突き立てながら駆け上がる。
「よそ見してんじゃ、ねええ!」
スイレンに注目する大猿の頬を、ターボが目にも止まらぬ速さで蹴り、スイレンから視線を外させた。
「感謝します、ターボさん!」
刀をくるりと持ち直し、大猿の首元をロックオンしたスイレン。
国民を飢餓に陥れた恨み、故郷を壊された悲しみ、そしてシノノメの腕を喰いちぎった怒り。
カーソルノイツという組織に抱いた全ての悪感情を一撃に乗せて、スイレンは斬撃を放つ!
「彗星刀・一閃ッ!」
カザキたちと出会う前、一人で盗みを働きながら生活していたダリアちゃんは応急処置が得意です。
あとは昔から敵に突っ込んでいく誰かさんの脚をしょっちゅう治していたので、自然と身に付いたのかもしれません。




