第1212頁 翡翠
灯篭の火に囲まれたシノノメ、スイレン、ターボ、ダリアの四人は特殊な空間に強制的に転移させられ、そこでとある男と出会った。
猿の面を頭の横に着けた若い男性だ。
「お聞かせ願えますか、あなたから滲み出る[龍]の気配について」
龍は禁忌の存在で、人類の天敵だ。
厄龍戦争時代以降、その考えが常識だった。
しかし死骸から体液を抽出し、エクス・マキナという存在を作り出したり、こうして人間に龍の力を取り込んだり、彼らは龍というものを軽んじている。
「例の動物化の薬、あれも龍を使っているんだろう? 龍を兵器として運用するなど……貴様は[某国]の真似事でもするつもりか?」
某国。
厄龍戦争時代、龍と精霊を[瘴気]によって洗脳し、世界を支配しようとした凶悪な国だ。
某国の行為により全世界の人間の六割が死滅したため、本当の名前を呼ぶことすらはばかられている。
「真似事? くはっ。いいや、俺たちは某国のように失敗しない。同じ道を辿り、そして越えるだけさ」
会話の途中、彼の傷口が再生していく。
理由は分からないが、彼は[龍]の力を摂取し、超再生系の能力を手に入れたようだ。
「ダリア、ここから脱出はできないのか?」
ターボの問いに、ダリアは顔を横に振る。
「もう試したけど、上手く発動しない。この空間の中で移動は出来ても、中から外へは出来ない。おそらく何かの阻害」
「ってことはつまり、あの猿を倒さない限りこの空間から出られないってことか」
地平線まで続くだだっ広い空間だ。
その中心には屋敷が一軒あるだけで、他には何もない。
「海神刀・水塊!」
刀の先から水塊を放ち、それと同時にシノノメ本人もヒガンへ接近する。
「ふっ!」
水塊は難なく斬られ不発に終わるが、本命はシノノメ本人だ。
隙をついて懐へ潜り込んだ彼女は刀を握りしめ、片手で斬る。
「海神刀・蒼の瀑布!」
横向きの滝がどこからともなく現れ、ヒガンを思い切り殴りつける。
「あなたを捕え、アバドンへ収監しますッ!」
身体を水に変え、横殴りの滝に潜んでいたスイレン。
滝に飲まれて動揺するヒガンへ、彼女は追撃として斬りかかる。
「この前脱獄されたんじゃなかったか? 人類最強が居たのに脱獄を許すなんて、一般人は一体誰を信じれば良いんだろうな?」
「戯言を……ッ!」
二刀の斬撃を一本の刀で受け止めるヒガンは、窮地に追いやられてもなお口を動かす。
「聖具は良いよな、持つだけで力が手に入る。大して努力しなくても良いんだ」
笑いながらシノノメを見る視線に気がつき、ついにスイレンは堪忍袋の尾が切れる。
「シノノメ様を侮辱するなッ! この人は間違いなく現在の王で誰よりも努力した人だ! 何も知らないお前がシノノメ様を馬鹿に─────」
「スイレン待て、挑発に乗るな!」
一度距離を取り、再び仕掛けるスイレンは怒りに身を任せ、隙の大きい技を出す。
かかった、と言わんばかりに口元を歪ませるヒガンは刀を握り直し、斬りあげる。
「はっ……!」
咄嗟に両刀で防ぐが、あまりの力強さに彼女は後方へ吹き飛ばされた。
腹に浅い切り傷を受け、呼吸を整えながら立ち上がるスイレンだったが……。
「そんな……翡翠刀が……!」
今までどんな装甲だって斬ってきた彼女の愛刀の片割れが、先ほどの斬撃を受けたことでヒビが入り、目の前で砕けてしまった。
彼女の奥義である[幻想蓮華]は翡翠刀と彗星刀の二刀の力があって、ようやく発動できる技。
つまり翡翠刀を失った今、スイレンが奥義を放つことはできない。
流石のスイレンもこれには動揺したらしく、呆然と立ち尽くす。
「刀が一本折れたくらいでッ! 隙だらけだぞ!」
笑いながらトドメを刺そうと接近するヒガン。
彼女とヒガンの刀が触れる寸前、彼の頭上に一つの人影が現れ、脳天へ踵落としをぶつけた。
「あがっ……!?」
「今だ、ダリア!」
「ばか、合図したらバレる……」
ターボの合図とともにダリアは能力を使用し、ヒガンが握っている刀を[彼の腹部]へと瞬間移動させる。
「くぶっ……」
刀で貫かれたヒガンは鮮血を吐き、力なく数歩下がる。
「言っておくが、エンジンが使えないからって戦えないわけじゃないからな」
「まだ聞いてない。どうしてターボの弟と妹を殺したの」
ヒガンの前に立つのは、ターボとダリアの凸凹コンビ。
あれだけ敵対していた彼女らが、スイレンの目には格好よく見えてしまったのだった。




