第28-1頁 鈴音のような君の声
テントの中で眠りに落ちた六花と静紅。
目を覚ますとそこにはルナが居て、静紅は最高の目覚めを迎える。
「……さん、おきて。そろそろ出発……」
目を開けて、そこに居たのは銀の髪で黄色の目をした背の小さな少女、ルナだ。
ルナは鐘の音のような透き通った声で私たちを起こそうと、ベッドに乗ってモゾモゾと動いている。
「ありがとうルナ。おかげで朝から幸せな気分だよ、ついでに服脱いでくれる?」
「へんたい。やっぱりルナをいやらしい目で見てる。酷い、紗友里様と姉さんに報告する……」
「ああー!! それは出来たら控えて欲しいかなあ……」
ジト目でこちらを見てくるルナは「それより」と前置きをして言葉を続けた。
「リッカさん、多分今日は動けない」
「なぜに?」
私に、そう言われるとめんどくさそうな顔を一瞬だけして説明した。
あぁ、この世界の常識とか色々知らなくてすみませんね!!
「昨晩、ニンナさんとの戦いの時に……リッカさんは電磁砲を撃った」
私は首を傾げて、更に質問に質問を重ねていく。
「でも、それとこれはどんな関係があるの?」
「普段、走らない人が運動すると筋肉痛になるように……普段魔法を使わない人が魔分子を使うと、身体が痛くて動けなくなる。……この現象を例えるなら、魔法筋肉痛」
「なるほどわかりやすい」
さっすがルナちゃん! と言いたいところだが、これ以上ルナに何か言うと正式にロリコン認定されそうなのでやめておこう。
「ああ、シズクさん……そろそろ出発するから準備、して」
思い出したようにルナは動き出すと、床に置いていたポーチを私に渡してくれた。
「わかったよ、六花はどうすればいい?」
運べる分は自分で運びたい主義の私。六花ぐらいなら能力でベッドを持ち上げてそのまま連れていくとこだって可能だが……。
「大丈夫。リッカさんはルナが預る……」
「え、あ、そう? わかった。よろしくね」
「うむ」
ルナは無言で頷き、ベッドから降りて片づけを始めた。
「一人でできる? 手伝おうか?」
「心配ない……。このような仕事をするのも、めいど? のお仕事。お客様に助けてもらうなんて出来ない、大丈夫。遠征でいつもやってるから……五分で終わる」
お、おー、私の気遣い全部空回りしてる。
頭を掻いて、優しくルナ問う。
「分かったよ、それじゃあこれからどこに行けばいいかな? とりあえず顔は洗わなきゃだけど」
「今は姉さんが料理を作ってみんなに配ってる、そこに行けば朝食は食べられる」
「わかった、ありがとうね!」
「礼には及ばない…それより早く食べて遅れないようにした方が……」
そう言われた私はルナの言葉が終わるよりも先にテントの外に飛び出た。
ルナは私が居なくなったことを確認して、手袋のようなものをはめる。
「……さて、今からテントの片付けを開始する」
・・・・・
「ん、んん……?あ、ルナさん、痛っ!?」
六花の身体に酷い筋肉痛のような電撃が走る。
「動かなくていい。ルナが治癒魔法をかける……でも、これは気休め程度」
ルナが六花に手を伸ばし、手のひらを六花の額に当ててこう唱える。
「…下級治癒魔法」
その途端、ルナの手が緑に光り、額から六花の体内に緑の光を押し込めた。
気持ち程度だが、身体が軽くなったことに六花は驚きの息を漏らす。
「…はい、おしまい。これで少しは痛みが和らぐはず。でも、一日は魔法のいんたーばる? を開けた方がいい…」
インターバルって言葉、この世界にもあるのか…? それとも紗友理が教えたのか…
そう考える方に意識を使いすぎて六花は黙ってしまった。
「……あ、 リッカさんはこのテントに残ってて」
「あ、分かりましたすみません」
「謝る必要、ない」
その会話を最後に、ルナはそそくさとテントの後片付けを始めた。
魔法をたくさん使い、木箱にものを詰めたり、自動でテントが畳まれていったりと、六花には信じられないような光景だ。
さすが魔法……というか異世界。
「よし、終わった……それじゃ、ルナはリッカさんの食事を持ってくる」
そう言ってルナはテントを出ようとしたが、六花の言葉に足を止められた。
「あの! ルナさんってなんなんですか……?」
幼くして王都近衛騎士団に所属し、メイド仕事もこなし。
先程のような凄い魔法をあたかも簡単に使用したり、ただの幼女ではないのは明白だ。
六花のその言葉にルナは数秒間の空白を作り、口を開いた。
「……まだ詳しくは言えない。でも、ひとつ言えるのは姉さんとルナはただの人間じゃない。秘密はときに神秘を生む。それが魅力。……それじゃ、朝食を取ってくる」
そう言ってルナは今度こそ六花の元を離れた。
テントが畳まれ、外から丸見えの状態で六花はもう一度ベッドの布団の中に入った。