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第1194頁 私に強さをくれたこと


 鯨を模した水塊に乗って、シノノメとスイレンの二人は島国東端にある[廃村]を訪れた。


「村が廃れてからもう何年だ?」


「五年と七ヶ月です。かつて鬼人が住んでいた小さな村。彼らは持ち前の狩りの腕で獣たちを狩猟し、人間たちに肉などを提供していました。ただ、ある日……」


 ある日突然、この村は見るも無惨に破壊されてしまった。


 生き残った鬼人の証言によると、目を刺すような彩度の高い色の巨大な粘液状の生物が村を襲ったらしい。


 粘液状の生物の襲撃により、鬼人の大半は死亡。


 当時のスイレンは酷く自身を責めた。


 何のための力だ、何のための修行だったのだ、と。


「……」


 スイレンは前髪の向こうに廃れた故郷の姿を見ながら、誰にも聞こえないような小さなため息をついた。


「行きましょうか。連中の基地は山側の洞窟です」


「ああ、早々に終わらせてやろう」


 岩で作られた決闘場、駆けた村の道、村人の家、スイレンの家。


 特訓ばかりのスイレンに友人と呼べる者は居なかったが、自分の故郷に住む人々は広い目で見れば家族とも言える。


 幼少期の頃に見た景色とかけ離れた惨状に、気持ちが荒みながらも彼女は歩いていく。


「スイレン、こんな時に聞くのもどうかと思うが、両親についてはどう思っているんだ?」


「本当です、時と場所を弁えてください。不愉快ですので」


「……」


「両親について考えたくも無いほど嫌悪していますが、とある点に関しては感謝しています」


 スイレンは瞳を閉じたまま、嫌なことを思い出すような表情で語る。


「私に強さをくれたこと、そして私に命をくれたことです。それ以外の一切合切、あらゆることを嫌悪していますが、この二つだけは感謝しています」


 スイレンは幼い頃から[強くなること]を生きがいとするように教育を受けてきた。


 強さ、そして勝利を追い求めた結果、彼女はあの道場を訪れてシノノメと出会うことができた。


 その点に関しては感謝している。


 命をくれたことというのも大体同じ理由だ。


 生まれてこなければシノノメと出会えなかった。


「君はあれだな、少々私に依存しすぎていないか?」


「依存させたのはどちら様でしょうね。……さて、お客様です」


 グッと足裏に力を込めて立つスイレンの視線の先には、何かの作業をしていたのだろうか、数人の[仮面をつけた男]がいた。


 向こうもこちらの存在に気がついており、同じく刀を抜く。


「鳥、鼠、猪……動物の面、間違いありません。カーソルノイツです」


「なら手加減は必要ないな。手厚い出迎えには手厚い礼をしてやらねば」


 シノノメは一呼吸入れる暇もなく、すぐさま足を踏み出すと同時に刀を抜き放ち、海神刀を解放した。


「海神刀・滝壺!!」


 海神刀はその剣身を水に変化させられる聖具だ。


 その水量は数百から数万リットルで調節できて、一本の刀のどこにそんな水が入っているのか想像もできない、まさに失われた叡智の結晶である。


 二十メートル上空からコンクリートよりも硬い水が滝のように落ちてきて、カーソルノイツの団員たちを一掃する。


 辺りが水浸しになる中、シノノメは勝ち誇ったように刀を鞘に納めた。


「大規模な攻撃は結構ですが、周囲の被害も考えてくださいね」


「あっ、スマン……」


「全く、これだから人類最強の侍様は」


「人類最強の侍の付き添い人を信頼しているからこその攻撃だ。君ならちゃんと後片付けをしてくれるだろう?」


 格好をつけてそんなことを言うシノノメの脇腹を、刀の柄で小突いて。


「それってつまり私に押し付けてるだけじゃないですか」


 頬を膨らませ、しかし微笑むようにスイレンは能力で周囲の水分を操作して、後片付けを行うのであった。


 作中の最後に出てきたスイレンの後片付けですが、彼女の能力は[自分の体を水にかえる]と言うもので、その応用で[周囲の水分を自由に操作できる]こともできます。


 そのため、やろうと思えばシノノメの海神刀で出した滝をスイレンの能力で自由に操作することもできます。


 が、広範囲、大量の水を操作する場合、それだけ体力を消費するので効率は悪いですね。

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