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第1188頁 泡沫姫・オリジン

「せいっ! せいっ! はっ!」


 滾る闘気、滴る汗、蒸れる服。


 頭の後ろで髪を結んだ幼い頃のシノノメは、一日十時間以上も木刀を振り続け、汗を垂らしていた。


 そこは剣士見習いが集う小さな道場。


 シノノメの父が師範として構えるこの道場には約二十名の生徒が通い、その全員が人並み以上の実力を持っていた。


 その中でもトップに君臨する生徒こそ、幼き日のシノノメである。


 シノノメ幼少期、八歳。


 彼女は平然を装いながらも、非常に焦っていた。


 六歳から九歳くらいにかけて、この世界の住民は[能力]という特殊な力を手に入れる。


 あるものは手から炎を出し、あるものは触れたものを石化させる。


 そんな能力は道場の生徒達にも発現し始めた。


 言い忘れていたが、生徒の年齢の内訳としてはシノノメと同年代である七歳から九歳までが大多数を占め、残り数名が十歳以上、最年長は十三歳という比較的平均年齢の低い道場となっている。


 他の生徒達が一時的に筋力を倍にする能力や刀を分身させる能力を手に入れる中、シノノメが手に入れたのは[周囲に泡を漂わせる]というだけの能力だった。


 能力を手に入れた生徒達は、各々の戦闘スタイルに織り交ぜてさらに強くなっていく。


 だからシノノメは焦っていたのだ。


 皆は強い能力を手に入れているのに、自分だけ泡を出現させるという能力なのだから。


「相手の目の前に泡を出せば、目眩しにはなるか……?」


 休憩中、水分補給をしながらシノノメは自身の生み出した泡を指で突いていた。


 泡といってもシャボン玉のような泡ではない。


 触れると一瞬で弾けてしまう、水の泡だ。


「とにかく力を付けないと。最強の剣士になるには、まずこの道場で一番強い剣士になる必要がある」


 シノノメは気合いを入れ直し、木刀を持ち上げて道場の方へ向かう。


 その道中、彼女は道場の玄関に[見知らぬ下駄]があることに気がついた。


 新しい生徒だろうか、足のサイズ的には同年代くらいだな、などと考えながら廊下を進んでいくと、突然奥から何かが爆発するような音が聞こえ、シノノメはすぐにそちらへ向かった。


「なんだ、何があった!」


 練習場への横引き扉を開き、シノノメは中の様子を確認した。


「……」


「……?」


 そこには折れた二本の木刀を握りしめる、シノノメよりも少し背の低い少女がいた。


 少女は練習場に置かれた木製のマネキンを切り倒し、猫背のまま息を荒げていた。


 どう斬ったらマネキンで爆発が起こるんだ、と驚きながらシノノメは練習場の中に足を踏み入れる。


「お父様、何があったんですか」


「新入生だ。シノノメ、仲良くしてやってくれ。っと、スイレンと言ったかな? ありがとう、君の実力は理解したよ。それではスイレン、一番後ろの列に並んでくれるかな?」


 師範がそう言った後、スイレンは数秒かけて静かに生徒達を一瞥した。


 ようやく動き出したかと思うと彼女は折れた木刀を捨て、壁にかけられた二本の木刀をとって。


「この中で最も強き者、決闘を申し込みます。出てきてください」


 その彼女の瞳は野生動物を狩る肉食獣のようで、シノノメ以外の生徒は縮こまり、顔を下に向けていた。


「スイレン、初日に問題行動か? ここでは私の指示を聞いてもらう、出来ないようなら……」


「良いだろう、私が受けて立つ。決闘だ」


「シノノメ……お前まで」


 師範は止めようと思ったが、二人の瞳の奥には確かに輝く闘志があった。


 それを見て彼はため息をつき、決闘の準備を始めた。


「突然やってきて、挨拶した途端決闘を申し込むとは威勢が良い。……いや貪欲といった方が正しいか」


 シノノメは刀を片手で数回振り、先をスイレンに向ける。


「強い者と戦いたい欲。強い者に勝利して優越感に浸りたい欲。そして──────」


「……?」


「誰かに認めてもらいたい欲。いわゆる承認欲求というやつだ。それらの欲は武士道において重宝される、君は素質がある」


「何が言いたいのですか」


「私好みというやつだ! さあこい生意気娘!」


 ニカッと笑い、余裕の表情のシノノメにスイレンは疑問を通り越して怒りが湧く。


「いつまで笑っていられるか……楽しみですね!」


 スイレンはダンッと体重を乗せた一歩で踏み出し、一気にシノノメの懐へ潜り込み──────!


 というわけで! 今回から第23.5章 カーソルノイツ・ピリカート編をお送りいたします!


 タイトルから分かるように、カーソルノイツが関係してくるサブストーリー的なお話です!

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