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第1182頁 花は散れども想いは枯れず

「花を硬くするだけ!? あっははは! イザヨイの能力、ひい、花を硬くするだけ……ぶっはは!」


「て、てめえ! 笑うなあー!」


「ふふ、だから秘密にしておこうって言ったのに」


 黄昏時、ササヤマの川端にて座る三人の子供。


 数年待ってようやく開花した能力が、花弁を硬くするだけの能力だったイザヨイは友人のフランにそれを打ち明けた。


 ずっと前から「剣から炎を出す能力かな」「雷を手から出せるかも」と妄想を繰り返していたイザヨイを彼女は知っているので、余計に[花]が面白い。


 腹を抱えて涙を流しながら爆笑するフランに、イザヨイは顔を真っ赤にしてフランの肩をぶんぶんと振る。


 それを見て微笑むカグヤは、川の近くに生えていた一輪の雑草の花を持ってきてイザヨイに見せた。


「じゃあこれ、硬くしてみて」


「雑草じゃねえか……まあいいけど」


 花に手をかざし、イザヨイは能力を発動する。


 すると花弁がパリッとした感触になり、フランが握りしめると粉々になって散っていった。


 確かに花弁が硬くなった。


「ふっ……」


「ああ!? 今鼻で笑っただろ!」


「いやいや、笑ってない笑ってない。もっと硬くできないんスか」


「ちょっと待ってろよ、本気で硬くするから……」


 ムキになって目の前の花に集中するイザヨイの表情を見て、二人はふふっと笑う。


 どんなことにも全力で、負けず嫌いの彼。


 これから一生この能力と付き合っていくのだから、何とか使い道を見出そうとしているのだ。


「できた! どうだこれ、良い感じだろ」


 そう言ってイザヨイが見せたのは、先ほどのようなパリッとしか感じではなく、アルミホイル程度に硬くかつ柔軟性のある花弁だった。


「……なるほど、これなら上手く戦いに使えそう」


「ん? どうしたんだフラン、珍しく真面目な顔して」


「アタシはいつでも真面目っスよ。イザヨイにはこれから毎日ずっと花を硬くしてもらうっス。能力は使えば使うほど強くなるから」


「つまり、今の全力はこの程度だけど頑張ればもっと硬くできるかもしれないってことか!」


「鉄よりも硬い花弁……それは相手を欺きながら効果的な攻撃を行える、立派な武器っスよ」


 幼い頃から戦いについてばかり考えていたフランにとって、今の騎士という職業は天職だろう。


「流石フラン! やっぱり村のみんなが褒めるだけあってすごいな」


 戦闘のポテンシャルはまだ開花させていないが、戦うための頭脳とそれを実践する身体があればきっとフランは強くなる。


「あっはは、まあアタシにかかればこんなもんっスよ」


「フランの能力はすごいよなあ、殴れば殴った分だけ最後に大きい一撃が放てるんだろ? 双剣と相性バッチリじゃねえか」


 頭の後ろで手を組んで草の上で寝転ぶイザヨイに、カグヤは冗談を言うように。


「イザヨイだって相性バッチリで似合っていると思うよ」


「花が似合ってるってどういうことだよ……!」


「似合ってると思うよ、ねえフラン?」


「うん、似合ってる似合ってる。イザヨイは可愛いっスもんね」


「はああ!? 俺は勇敢な侍になる男だ、可愛いとか……そんなんじゃねえ!」


「「その反応が可愛い」」


 顔を真っ赤にしてワシワシと両手を動かすイザヨイ。


 その反応が可愛い。



 彼の今の様子を表すには、この一言が最適だろう。


 イザヨイ君は可愛い。


 時系列的には三人が和気藹々と話している中、ヴァイシュ・ガーデンの雪の村ではフレデリカたちがボロボロになりながら魔物と戦ってるくらいでしょうか。

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