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第1179頁 朧月

 双方の意思が接続し、共鳴する。


「愚問です、ご主人様。私アテナはご主人様の、そして皆様の盾……しかしご命令とあらば一層張り切って参りましょう」


「まずは[小惑星]の大群からですね。とりあえず突き飛ばしましょうかッ!」


 アテナとヘスティアは召喚されて着地するなりすぐに戦闘態勢に入り、アテナは[小惑星]の進行を遮るために防壁を展開し、その陰で強力な攻撃をヘスティアが準備する。


 ヘスティアが力を込めて槍を突き出すと、旋風のような爆風が生み出され、正面百八十度にいる小惑星の大半を巻き込んで祠の奥の壁に激突させた。


 壁に衝突、または仲間同士でぶつかった小惑星はぱかっと半分に割れ、その後動くことはない。


「はあ、はあ……ちょっと休憩……」


「ありがとうヘスティア、おかげでみんなを救えたよ」


 私の言葉にヘスティアは何も答えず、ドヤ顔でサムズアップをする。


 アテナの防壁が祠の中心に展開され[手前と奥]で完全に分離される。


「はあ、何とかなったな……オトヒメは大丈夫か?」


 蜜柑が心配して倒れるオトヒメを覗き込むと、彼女が白目をむいて気絶しているのがわかった。


 気絶で済んだならそれで良い。


「この防壁もいつまで持つか分かりませんわ、皆様できる限りの準備と休憩を」


「では強化魔法を全体にかけておきますね。それと小惑星についてなのですが、彼らは一体何なのですか?」


 小惑星について、何か情報がなかったかカグヤは記憶の隅々まで思い出すが、少なくとも[蜃気楼の精霊戦]は人間側VS精霊一匹の戦いだった。


 首を横にふるカグヤに、一行は「うーん」と唸る。


「この六十年で成長した新しい力ってことか、わかってたけど厄介だね。戦い方すら変わってるなら、過去の情報はあまり当てにしない方が良いかも」


「しかしヘスティアさんの槍のおかげで小惑星の大半は討伐できま─────」


 言葉の途中、六花は硬直する。


 顔を真っ青にして、そして絶望とも苦笑いとも取れる顔のまま冷や汗をダラダラと流す。


『……?』


 生き残りだろうか、防壁の内側にも関わらず小惑星が居て、それは六花の足に抱きついていた。


 ぴとっとそれが頬擦りをした瞬間、小惑星は赤く輝き出し、そして自爆した。


「あがっ!? あ、ああ……足が……! でも思ったよりダメージは少ない……」


 六花は地雷などを想像して足が吹き飛んだと思ったが、転けて足を擦りむいたくらいのダメージしかないことに驚いた。


「はあ……はあ……大丈、夫ですか? すみません、本当なら無傷にして差し上げたかったのですが……」


「ひょっとしてアテナさんが、自爆の直前に防壁を? ありがとうございます……」


 六花がアテナに感謝をする中、私の背中をツンツンと突く結芽子。


 私に耳打ちするように、小声で結芽子は話してきた。


「明らかに二人のスタミナが落ちとるな。ヘスティアくんもアテナちゃんも、前はもっと長いこと戦えたはずや」


「うん……きっと人形自体がもう壊れかけだから、それが影響してるんだと思う。だからできるだけ二人は戦わせたくなかったんだけど……でも今回は仕方ない」


「あっ、見てください! 祠の奥……蜃気楼の精霊付近にいる小惑星たちが……」


 ヘスティアの攻撃によって祠の奥に集められた小惑星の生き残りたちは、六花の足のやつと同じく赤く輝き出す。


「皆さん伏せて!」


 アテナは急いで[一枚の防壁]から[ドーム型の防壁]に切り替えるが、その最中に体力の限界が来たのか腕が一瞬動かなくなり、ドームの展開が数秒遅れた。


 大量の小惑星たちの自爆により、蜃気楼の祠は大破。


 私たちは未完成のドームの中に入り、頭を抱えるがエルメスだけは伏せずに周囲の様子をじっと見ていた。


「ここで目を離したら、ダメな気がする……! クラウソラス、みんなを守って!」


 機腕の鎧は分解、展開されてドームの内側にさらに皆を包むように配置される。


 エルメスの直感通り未完成のドームは祠の瓦礫によって突破され、クラウソラスは背面に瓦礫による傷を受けながらも主人たちを守った。


「朧月……」


 朧月。


 それは霧や水蒸気によって、月がぼやけているように見える月のこと。


 祠の倒壊によって発生した砂塵が月の輪郭を曖昧にし、エルメスにはそれが[朧月]に見えた。


 砂塵だけではない、蜃気楼の精霊が生み出す濃霧が周囲に広がり、数歩先すらまともに見れない状況だ。


「……」


 小惑星の自爆によって祠は大破、天井と壁が崩れ落ちる。


 完全に[蜃気楼の精霊]が外界へと出ていく。


 幸いどこかへ飛び去ることはなく、私たちの方を不気味にじっと見つめていた。


「凄まじい爆発ですね……しかし祠が崩れるのは想定内です。白兎!」


 カグヤが合図をすると、いつの間にか兵器バリスタの周囲にいた式神白兎は一斉に、拘束用の縄が括り付けられた矢を蜃気楼の精霊目がけて発射する。


 フック状の先端は月の凸凹に引っかかる、もしくはそのまま突き刺さり、蜃気楼の精霊は拘束された。


「あなたは外に出てはいけない存在です。ここで必ず打ち倒し、後世に迷惑をかけないよう完全に核を破壊してみせます!」


 六十年越しの蜃気楼の精霊戦、第二ラウンドと言ったところか。


 敵意を向けられた精霊は怒りの表情を浮かべ、高く咆哮した。


 輪郭が曖昧な朧月は、金色の双眸でこちらを睨みつけるのであった。


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