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第1176頁 英雄たらしめる

「……あっ、み、見てください皆さん……」


 こちらはふたつの山の間に位置する祠にて、扉が開くまで待機する組。


 軍事品の[蜃気楼の祠]の前まで運んできた四人は各々戦闘準備を行っていた。


メンバーはエルメス、時雨、カグヤ、オトヒメ。


 フレイマギアの弦を調節していた時雨は飛び跳ねるように立ち上がると、祠の扉へと駆けていく。


「でかしたエルメス! きっと静紅お姉ちゃんたちが結晶に明かりを灯したんだ」


「フレデリカさんたちも上手くいったみたいですね……流石だなあ。えへ、えへへ……」


 蜃気楼の祠の扉が開く。


 前後の二重の扉となっており、静紅たちの方が一枚目、フレデリカたちのが二枚目だ。


 ごごごご、と重い石が引きずられるような音ともに扉が開き、奥の部屋の様子が目に飛び込んでくる。


「わあ……」


 そこは爆発の跡だろうか、ところどころ黒く変色した地面が目立つ[闘技場]のような場所だった。


 闘技場には複数の大砲とバリスタが用意されており、他にも治療に使っていたのだろう待機室なども備わっていた。


「六十年前のことは何も知らないけど、きっと[封印するための祠]じゃなくて[戦うための祠]でたまたま封印したって感じかな」


 荷車を皆で押しながら、三組目の待機組は祠の中へ入っていく。


 荷車に積まれているのは砲弾やバリスタ用の矢、医療用具などだ。


「クラウソラス、何か知らない……?」


『……』


 主人の問いに、クラウソラスは申し訳なさそうに首を横に振る。


「……久しいですね」


 カグヤのその声に、俯きながら歩いていたオトヒメが顔を上げる。


「ひいぅ!? な、ななな、なんですかこれ……ッ!」


「お、おおお、オトヒメさん落ち着いて……! 手、手を握りましょう、ね……」


 全身をガクガクブルブルと震わせながら手を握り、抱き合うエルメス&オトヒメ。


 そんな二人を他所にカグヤは[月]を睨み、時雨は腕を組んで首を傾げていた。


「月、月……月かあ……」


 時雨は一生懸命、僅かに残る百年前の記憶を追想するが、ここまで巨大で忌々しく嫌悪を覚える精霊なんて居ただろうかと首を傾げているのだ。


「ここまで印象的な精霊と出会ってたら確実に覚えてるだろうし、こんな精霊の噂があったら情報通のアンダルソンが知らないはずがない」


 やはりペルソナの言っていた通り、百年前の当時とは比べ物にならないほど[成長]しているのだろうか。


 魔法らしき半透明な鎖に繋がれた月には顔があり、見た者全てを恐怖させる。


 今にも眼球が飛び出してきそうなほど見開いた目、不気味に見せる白い歯。


 鎖から脱出せんと身動ぎを行う様子は、今まさに[禁忌]が解き放たれようとしているようだった。


「封印の結界がそろそろ限界のようですね」


「カルロッテ以外の封印で六十年もったら充分だよ。大丈夫、私たちに任せて」


 時雨は話しながら先頭に出て、フレイマギアを構える。


「ここまで強大な精霊と戦うのは久しぶりだけど、今はみんながいるもんね。自分を含めて、もう誰も死なないように……」


 [英雄]と称えられる時雨は、その背景にたくさんの人を見送り、見殺しにし、自分すらも殺してしまった。


 今度こそ彼女はもう誰も死なないようにと弓を構える。


 月のクレーターから放出される白い霧が、彼女の意志を嘲笑うように立ち込め始めた。


 時雨の力と記憶は百年前の当時と比べて、半数以上が[世界樹の蘇生治療]によって失われています。


 それでも彼女は皆の前に立ち、武器を握りました。


 彼女の本能的な自己犠牲等の精神が、彼女を英雄たらしめたのでしょう。


 上手く言葉には出来ませんがね……!汗

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