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総集編 101頁〜200頁までの軌跡 その9

200頁までの総集編にしようかと思ったのですが、キリが悪いので、第10章が終わる209頁まで総集編にしてしまっていいですか……?


ですので明日が総集編ラスト、明後日からクリスマス直前特別章?みたいなのを投稿して行きたいとおもいます!

第10章[アングリフ・ボレロ]


旗槍と聖女編・後編


第197頁〜203頁




 貴族邸に到着した静紅たちは、警備の手薄な裏口から侵入することにした。


 ここは敵の本拠地、あまり騒ぎを立てずに進みたい。


 それに貴族邸はとても大きい。一部屋一部屋クリュエルを探していると時間がいくらあっても足りやしない。


 静紅は明らかに弱そうな兵士を脅し、案内役をさせることにした。


「ど、どうして私がこんな最前線に……。もう嫌だよ、絶対来るじゃん。絶対通るじゃんこの道! ここしか通る道ないもん! 私もう死ぬよ、無理だよ……」


 何に脅えているから知らないが、静紅が目をつけたのはそばかすの目立つ地味な少女兵士だった。


「ぅおらぁ!!観念してね!」


「ピャァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!きゃぁぁぁぁああああ!!!!!」


 静紅は彼女の視界を奪い、そっと耳打ちをする。


「この貴族邸の案内と、ジャンヌ用の鎧を。従わなかったら……分かるよね?」


「ひ、ひいい……」


 これで軽装だったジャンヌも晴れて多少の鎧を身につけられ、クリュエルのところへ最短で行くことが出来る。


「あのぅ……私、どうすれば?」


 静紅の耳打ちによって頬を赤らめて恍惚とする少女兵士。身ぐるみも剥がされ、案内もさせられる少女を哀れみ、静紅は手を差し伸べる。


「この国が平和になるところ、見たくない?」


 少女兵士は静紅の手を取り、案内役兼仲間になることを誓った。


 少女兵士自ら同僚の兵士を爆破したり気絶させたり麻痺させたりすることで、静紅たちの仲間だということを証明してくれた。


 静紅達は食堂を抜け、廊下の向こうには[剣術鍛錬室]なるものが見えているところまで来た。


 少女兵士に聞くと、王室間へ行くにはこの部屋を通らないといけないらしい。


 ほとんどの兵士は食堂にいたので何とか出来たが、残りの兵士が気になる。不意打ちされることだけは避けたいところ。


「さて、到着したわね。剣術鍛錬室……ってことは剣が置いてあるのかしら?」


 スズメが部屋の看板をマジマジと見ながら言った。


 簡単に言えば剣道道場みたいな感じか。


「え、えっと……、ここが剣術鍛錬室です。って、見れば分かりますよね……。さぁ、ここからしか行けませんし、早く行きましょう……」


 そう言うと少女兵士はゆっくりと扉を開いた。


 が、その途端ピタリと動きを停めてしまう。

 まるで、蛇に睨まれた蛙のように。


 不思議に思い、部屋の中を覗き込んでみると、彼女が固まった理由が一瞬でわかった。


「ソルーナ……!!」


 そこには月のように輝く銀の火薬銃を二丁構えた、銃士ソルーナが居た。


 その様子を見たスズメは溜息をつきながら、部屋の隅に置いてある剣を数本引き抜いて。


「シズク、ジャンヌ、早く行きなさい?ここはわたしが引き受けるわ」


 スズメの視線は気だるそうにしているが、決意にも満ち溢れた視線だった。


 流石のスズメも死ぬ気は無いらしく「すぐに追いつくわ」とグーサインを向けてきた。


 死亡フラグである。


 しかしこれはスズメが決めたこと。静紅にはそれを否定する権利はない。


 スズメを除く一行は、鍛錬室の奥にある階段を駆け上がって行った。



「さて、行ったか……。いやぁ、それにしても死にたくないわね。でもここで殺さないと殺されるんだから、頑張るしかないわね!」


 スズメはそっと、数本の剣を同時に浮かせてソルーナに向けたのだった。


 殺らなければ殺られる恐怖を背におぶり、スズメはニヤリと笑う。


 右手の合図とともに5を超える剣達が猛スピードで銃士に向かっていき────!!



・・・・・



 クリュエルの待つ王室間への扉を蹴破り、突入した静紅たち。


 そこには案の定、玉座に腰を下ろすクリュエルの姿があった。


「クリュエルッ! この時をどれほど待ちわびたか。貴様の首、頂戴するぞ!!」


 ジャンヌはクリュエルの姿を見るなり飛び込んで、全力の一突きを繰り出した……が。


 流石は国の王。ジャンヌの突きは軽々しくもクリュエルの二本指によって静止させられた。


「なっ……!?」


 急いでクリュエルから離れるジャンヌ。


「あなたの槍など私に通用しません。それにこの指輪があればあなたの能力の影響も受けません」


 クリュエルがつけている[魔道具]は、持ち主が受ける精神攻撃を受け流すというものだった。


 ジャンヌの能力は、敵対してきた生物の動きを制止させるというもの。


 クリュエルの方が一枚上手だったようだ。


「出てきなさい子供たち、目の前の物を蹂躙するのです」


 クリュエルはホムンクルスを呼び出し、状況は遂に最悪となった……と思ったのもつかの間、なんとホムンクルスは遠くの[ナニカ]に惹き付けられてどこかへ歩いて行ってしまう。


「まさか……[デコイの魔法]か!」


 別地点で待機しているルナとルリの魔法に、ホムンクルスは惹き付けられているらしい。


「ホムンクルスを危惧する必要が無いと分かった今、向こうが対策を講じる前に討つぞ!!」


「よーっし、最終決戦だ! しまっていこう!」


 少女兵士、ジャンヌ、そして静紅は戦闘態勢を取ると一斉にクリュエルへ向けて攻撃を仕掛けるのであった。



・・・・・



 鍛錬室で激闘を繰り広げるスズメと銃士ソルーナは、互いにしのぎを削り合い最後の一撃で全てを決することになった。


 横腹から血が吹き出すスズメは、歯を食いしばりながらやっとの思いで立ち上がる。


「言っとくけどね……こんなの過去の辛さに比べたらなんてことないんだから……はあ、はあ……」


 ホムンクルスに村を破壊され、孤児となったスズメにとっては当時に優る辛さは存在しなかった。


 たとえ銃弾で撃ち抜かれようとも決意を掲げる少女は倒れることは無い。


 母の形見である赤の布を腕に縛り直すしてから、スズメは魔法で五本の剣を一本に合成する。


「お互い無理してるみたいだし、そろそろ終わりにしない?どっちが負けても、言い合いっこなしってことで」


「ここまで私と渡り合えたのは貴様が初めてだ。貴様に敬意を表してその決闘、受けて立とう」


 スズメはありったけの回復薬を飲み干す。


 生きるか死ぬかの瀬戸際だが、不思議とスズメは笑っていた。


「やるからには」


「分かってる。言われなくても本気で行くわ」


 刹那の煌めきも逃さない緊迫感に包まれた鍛錬室にも、遂に終わりがやってくる。


 二人は向かい合って同時に一歩を踏み出すと、己の持てる全ての力を絞りに絞って攻撃する。


「行くぞ……ソルーナッ!!」


「来い! スズメェ!!!」


 青の光を帯びた幾本の鋼鉄の剣が、広い鍛錬室に軌跡を残しながら駆ける。


 光沢のある白銀の火薬銃の口から、真っ直ぐな鉛玉が発砲される。


 ふたつの全力がぶつかる時、空間が裂けるような音とともに視界が真っ白に染められて──!


「「うおおおおおおおおおおッッ!!!」」



・・・・・



 一方その頃、クリュエルの生み出したホムンクルスの全てを惹き付けたルリとルナ陣営は、この街で一番長い階段で防戦を繰り広げていた。

「第一砲撃隊、撃てェ!! 並んで第二、第三も砲撃準備! 第四、第五は撃ち終わった砲弾の再装填を!!」


「「おおおッ!!」」



 さすがは頭のキレる紗友里。反乱軍を五人一組のグループに分断し、効率よく階段を這い上がってくるホムンクルスを砲撃する。


 砲撃されて息絶えたホムンクルスを手際よく解剖して核を取り出し、袋の中に集めていく。


 このために反乱軍の全員に砲台の操作方法と、ホムンクルスの解剖方法を教えこんだのだ。


「勝利の女神は我々に微笑んでいる! 防戦を続け、少しでもジャンヌに負担が行かないよつにしろ!」


「「「「おおおッ!!!!」」」」

  

「怪我をした者はルナのところへ! それ以外は兵器の再装填を急げ!」


 このまま何事もなく終わればいいのだが。


 そう上手くいかないのが、この世界の理なのだ。



・・・・・


 その後ジャンヌは攻撃を続けるが、その全てを軽々と受け止められてしまう。


 そこでジャンヌは奥の手を使うことにした。



「支援魔法・筋力上昇ビルドアップ!」


 ジャンヌがそう呪文を唱えると、彼女の周囲に赤い光の粒が集まっていく。


 筋力上昇。一定間、対象の筋力を上げる魔法だ。


 そしてジャンヌは槍を持って華麗な演舞を始めた。両手でクルクルと槍を回して、地面に突き刺す。


「聖具解放・旗槍クロニクル!」


「あれが……」「聖具の解放!」


 そのジャンヌの行動に、静紅たちは口を開けて声を漏らした。


 目を凝らしてみると、聖魔分子があの旗槍に凄い勢いで流れ込んでいく。


 目が痛くなりそうなほど眩しい光と、旗槍を中心にして発生する強風がその切り札感を醸し出している。


 旗槍の力は、[自身の生命力と引き換えに強力な一突きを繰り出す]というもの。


 聖具の解放により、自身の生命力を吸われたジャンヌは酷い目眩に襲われる。が、強い精神で耐えたようだ。


「素晴らしい力ですね。……ん、実に素晴らしい。さすがにそれを避けることは出来そうにありませんね」

 

 そう言うとクリュエルは自分の右手首を握って、ジャンヌから距離をとった。


 すると、彼女の右手が巨大化すると共に黒い杭が突き出される。


 その光景は、私が想像していた最悪のシナリオをなぞっていたのだ。


「ん……、成功して良かったです。どうですか?右腕だけホムンクルス化するこの方法は」


 見るからに筋肉質の右腕。右腕という一部分のみが巨大化するその見た目は、人間のものとはかけ離れたものだ。


「この外道が! とうとう人間も辞めたかッ! 人間では無いのなら、容赦は要らない。殺す気で行くぞッ! クリュエル!」


「えぇ、その聖具の効果、力! ぜひ見てみたいものです。さあ、泣きなさい。苦しみなさい。あなたの成し遂げようとすることを、実現してみなさい」


 今か今かと威力の放出を待っていた旗槍は、ジャンヌの合図によって稼働を始める。

 キュイイイイ!! と機械音のようなものをあげながら、[聖具解放・旗槍クロニクル]を放つ!


 その刹那、2人の間にとてつもない衝撃波が走り、静紅と少女兵士は王室間の壁に吹き飛ばされた。


 そして、その壁でさえも旗槍の威力には耐えられず破壊され……。


「落ちるよ!! 捕まって!」


 私は女の子兵士に手を伸ばすと、無意識に上を見た。

 そこには、ジャンヌの旗槍に巨大化した右手を貫かれたクリュエルの姿があり─────!!



・・・・・



 少し時は遡り、鍛錬室にて。




 ふたつの全力がぶつかり合い、大破した鍛錬室で生き残っていたのは──────。


 力の入っていない手の中に黒ずんだ火薬銃を入れた女性が、静かに生命活動を終えていたのだ。


 脈を確認しなくてもわかる。綺麗な死に顔に息も出ない。


 喜べばいいのか、悲しめばいいのか。


 彼女は敵であると共に、スズメの中では一時だけだが剣を交えた好敵手でもあるのだ。


 葛藤に葛藤を重ね、スズメは行動を起こした。


「……貰ってくわよ。……あんたを忘れない為に」


 勝利したのはスズメだった。彼女は母親の時と同じように、ソルーナの服の生地を裂いて腕に巻き付けるとようやく気を抜いた。


 気を抜いた途端、どっと疲れと痛みが現れてそのまま倒れ込む。



「シズク、ごめん。私は……ちょっと休憩が……ひつ……よ……ぅ」


 スズメが床に倒れた時、少し上の方で大きな揺れが起きた。


 大木が割れる音、又は山が爆ぜる音。そんな音が聞こえる。


 そして─────。


「……スズメ! ここはもう崩れるよ! 急いで外へ────」


「ごめんなさいシズク……私、もうこれ以上戦うのは無理そうだわ」


 桃色髪の童顔の女性がスズメを担ぎあげた。


 静紅が「女の子兵士」と呼ぶ女性が、手榴弾で壁を破壊して、そこから飛び出したのだ。

 4階から飛び降りたのだが、シズクに抱かれていると何故か落下感覚は無い。


 彼女の腕の間から、ちらりと壊れた鍛錬室が見えた。


 ぐったりと瓦礫に腰掛けた死体が、その悲惨さを物語る。


「はい、スズメ。これがあなたの手柄だよ」


 静紅がスズメの頭にふわりと帽子を被せた。それは、とある銃士の身につけていた銃士帽だった。


「こんな手柄……欲しくないわよ……ほんと、バカ……」


 微笑む静紅に、スズメはゆっくりと微笑み返した。




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