第1154頁 改革
「あ、桜……」
「ふふ、取ってあげるよ」
私はニンナの髪に落ちた桜の花びらを摘み上げた。
桜が舞うこの都こそ港都リュウグウだ。
さて、オトヒメを探すためにここに来たのだが、まずはどこへ行けば良いのだろう。
「今更だけどニンナは何か知らない?」
「オトヒメ様はかなり謎の多い人物として有名で、時々しか公の場に顔を出さないのでそもそも会えるかどうか……」
「どのみち会わなきゃ行けないんだけど、確率が低いなら大変そうだね。シノノメに聞けば何かわかるかな」
そんなことを話していると、突然前方から事件性のある女性の悲鳴が聞こえてきた。
「あ、ああ……あああああッ!!!」
女性の絶叫する声に、周囲の雰囲気は一変する。
張り詰めた空気の中、私たちはそこ中心へ向かい、状況を把握する。
絶叫する女性、そしてその女性にはたった今斬り捨てられたのか右腕が無かった。
そしてその正面に、刀を構える[仮面]の男。
「なになに、何があったんですか?」
私は戸惑った風を装って近くの野次馬に問うた。
「ほら、最近国中に出没してる例の集団だよ。彼らのせいで都の人間は色々不自由な生活を送っているんだ。俺も最初から見ていたわけではないが……鬱憤が溜まっていた女性が男に対して何かしたんだろう」
「だからって腕を……」
「奴らはそういう人間だ」
「…………」
とりあえずカーソルノイツとかいう仮面の集団が一般人も襲うような性格の悪い集団であることは理解した。
私が野次馬の人と会話をする中、仮面の男は意気揚々と話し始める。
「この世界には改革が必要だ。数十年前から人類は厄災から復興を果たし、今では生態系の頂点に立っている。なんという傲慢であろうか! 龍神様や精霊様を差し置いて、人類が生態系の頂点に立ち、この世界の支配者になるなど傲慢だ!」
男の大声に驚いたのか、女性は這いずりながらも逃げようと必死だ。
しかし男は女性の服を踏みつけ、そこから逃げられないように拘束する。
「この世界には改革が必要なのだ!! そして改革には犠牲が必要……懺悔し、感謝しろ!! [新世界]の礎として貴様は我々の役に立てるのだから!!」
「……ッ!!」
そう言って男は刀を頭の上に構え、今にも振り下ろさんとするのを見て、私は咄嗟に能力を使用する。
刀を男から引っ張り上げ、そのまま地面に投げ捨ててから更に男の服を操作の対象に。
「ちょっとは話を聞こうと猶予を与えてあげたけど、やっぱり危険な思想の人だったか……でも私、あなたたちに協力してくれそうな人たち知ってるよ」
オラシオン教団って言うんだけど。
心の中でそう吐き捨て、対象にした男の服をそのまま上空へ持ち上げる。
「ニンナ、怪我人を!」
「はい!」
ニンナが怪我人を魔法や応急手当てで治療する中、私と時雨が男を地上から睨みつける。
「変な動きをしたらすぐに射るからね!」
「桃髪……仲間の情報に入っていたのと同じ人間か。運が良いのか悪いのか、いや良いな。ここで貴様らを殺せば今後の作戦は更にスムーズに進む」
「誰も大人しく殺されるとは言ってないからね!」
男は次の瞬間、操作対象にしていた上着を空中で脱ぎ捨て、拘束から脱する。
時雨がすかさず矢を放つが、男も相当な熟練なのか容易く避けられて。
「来るよアンダ……じゃない、静紅お姉ちゃん!」
「援護射撃は頼むよ、時雨!!」
よく見ると男は虎の面を着けている。
そして服の懐から小さな錠剤を取り出すと、口に運んで噛み砕いた。
「ああー、絶賛嫌な予感メーター上昇中なんですけど」
アテナとヘスティアがいない状態での戦闘は避けるべきだったか……?
いやしかし、あの場で出なければ女性が殺されていた。
『う、ぐ、ぐが……ッ!!』
錠剤を噛んでから約五秒、その効果が現れたのか男はたちまち巨大化し、体毛が増え、そして二足歩行の筋肉質の虎へと姿を変えた。
「変身系の能力!?」
「いや薬の影響だから違う。能力だったら良かったんだけどね……」
つまりカーソルノイツは対象を動物に変化させ、超強化させる薬を所有しているということだ。
本人の戦力に関係なく超強化できるなら、一般兵でも相当な戦力になる。
「あれこれ考えたいことはあるけど、まずは目の前の敵に集中だね!」




