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第1152頁 オトヒメ


 そこは泡の音が響く海の中。


 位置としては港都リュウグウの地下で、海水が満ちる空間だ。


 そこでは海藻や珊瑚などが自生し、色鮮やかな魚たちが行き交う。


「本日の真珠生産量はどうですかァ!! 順調ですかァ!」


 慌ただしく行き交う魚は、まるで集団行動の演技のようだ。


 魚たちに指示を出すため矢倉の上にて監視を行う美少女は、しかし顔からは想像できない野太い声で扇を振る。


 艶のある黒髪、適度に染まった頬、天女を思わせる羽衣、そして珊瑚で作った髪飾り。


 彼女こそカグヤと双璧を成す姫、[オトヒメ]だった。


「オトヒメ様! 最近の収穫は無茶続きで、このままでは来月分の真珠が収穫できなくなってしまいます!」


「ふむ……! いくらこの土地が龍神様の加護で豊かであるとはいえ、無茶な収穫は土地を傷付けることになりますね」


 オトヒメは扇についた鈴を鳴らし、魚たちの動きを停止させる。


「いよーし、全員作業終了ーッ!! 各々家に戻り、明後日まで休暇です!!」


 大声でそう指示し、オトヒメは咳き込みながら矢倉から降りる。


 ここは港都リュウグウの地下だが、地名的にはリュウグウである。


 旧リュウグウと区別されることが多い。


「やっぱり取りすぎは良くないですよね……だからといって真珠を取らないと家計がピンチ……」


 本日収穫した真珠と、今月収穫した数を記したリストを眺めながらオトヒメは悔しそうな顔をする。


「家族のためにもちゃんと稼がないといけないのに……」


 ぎゅるるる、と腹の虫を鳴かせ、オトヒメは口をすぼめる。


 海藻だけを食べ始めて何日経っただろうか。


 オトヒメは真珠を海外に輸出して生計を立てているのだが家族……ここにいる魚たちが予想以上に増えてしまったため、彼らの食費に頭を悩ませていた。


「家族総出で収穫しても、今度は真珠の数が減って見つかりにくくなってるし……!」


 満足な真珠ができるまでだいたい二年かかると言われている。


 しかし二年も待っていられないため、彼らは未熟な真珠すらも収穫している。


 それにより貝が傷付き、更に真珠の製造が遅れてしまうという[負のサイクル]に陥っていた。


「でも、土地を護ってくださっている[龍神様]への感謝は忘れちゃダメですよね」


 旧リュウグウの中でも一番日が当たる場所にソレは置かれている。


 [海龍マリン]を祀る祠だ。


 創世神話によると、海龍マリンは炎龍ファルルが踏み鳴らした灼熱の大地を冷ますため、雨と津波を起こし、世界の八割を水で満たした。


 当時その力を使ったのがこのリュウグウ付近と言われており、それが影響しているのか海産物が豊富に採れるのだ。


 祠に美しい珊瑚を供えると、頭を下げて感謝を呟く。


「スイレン様が持ってきてくださった団子ももう食べてしまいましたし……ここは一度陸に戻って……」


 オトヒメは人型の魔物なのか人間なのか、当の本人すら理解していない曖昧な存在だ。


 物心ついたときから海中で呼吸をしているので、水中呼吸の能力を持っているのだと思っているのだが、正確な能力はまだ分かっていない。


 海での生活に慣れているため、陸に上がるときは紫外線対策をしっかりしないとすぐに日焼けして黒くなってしまう。


 前回陸に戻った時は一ヶ月間は褐色肌になっていた、今度は気をつけよう。


「……よし、行きましょう。行ってやりますとも! 待っていてくださいシノノメ様、スイレン様! このオトヒメ、命をかけて陸戻りの旅に出ます!!」


 旅、とは言っても水深七十メートルから浮上するだけなのだが。


 それでも滅多に外に出ない引きこもりのオトヒメからすれば、一世一代の大勝負なのだ。


 海のこととか真珠のこととか、調べるついでに新しい知識も得られるので良いですね!


 さて、今回初登場したオトヒメですが[海底に暮らす引きこもり]みたいなキャラクターで描かせていただきます。


 魚たちを家族と言っているのは、物心ついた時から魚たちが隣にいて、言葉は通じませんがオトヒメのことを育ててくれたからですね!

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