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第1145頁 十六夜


「もしかしてあの方ですか……? 確かに腕は立ちますし、いつも暇にしていますが……」


「なになに、どんな人なの?」


「その名も[疾風怒濤の侍イザヨイ]! アタシの兄者みたいな存在っス!」


 十六夜? やっぱり東雲といい睡蓮といい、この国の人は日本らしい名前の人ばかりだ。


 その人物の名前をフランが胸を張って言い、隣にいた結芽子が続ける。


「兄者ってことはフランちゃんのお兄ちゃん? 侍やっとるんやなあ、かっこいいやん」


「血は繋がってないんスけど、小さい頃から面倒を見てくれたお兄ちゃんみたいな存在っスね」


「小さい頃から?」


「ああ、実はアタシ幼少期の大半をこの国で過ごしてるんスよね。だから実質もう一つの故郷みたいな感じっス」


 これまた衝撃の事実。


 フランの忍者コスチュームはたまたま彼女が見つけて着ているだけだと思っていたが、この国出身ならきっと[故郷に伝わる伝統的な服装]で忍者コスチュームがあるのだろう。


 皆が「はええ」と感嘆の声を漏らす中、突然誰かの腹の虫が鳴いた。


「あっはは、ごめん。なんだかお腹すいちゃって」


 頭の後ろを掻きながら時雨は恥ずかしさをかき消すように笑う。


「もうお昼時だもんね。ねえフラン、ニンナ、この辺りで美味しい料理店はある?」


 私の問いにニンナは両手をパチンと打つ。


「ではせっかくですので一緒にお昼を食べましょう。きっと食べたいものは皆さんそれぞれあると思いますから、専門店ではなく広く様々なものが置いてある店にしましょうか」


「わーい! お昼だ!」「わーい!」


 時雨とエルメスが両手をあげて喜び、それに釣られて蜜柑も遠くではしゃいでいる。


 私も内心大喜びだ。


 団子があるこの国なら、蕎麦やうどんもあるだろう。


 久しぶりだなあ、日本に住んでいた頃は何気なく食べていたけど、日本食って時々無性に食べたくなるんだよね。



・・・・・



「申し訳ございません、本日の分は全て提供し尽くしてしまっていて……」


「ええ、また!?」


 また、と言ったのは意外にもフレデリカだった。


 この店に来るまで他にも数軒飯店を回ったが、その全てが売り切れになっていた。


「相当暴食な方が街中の食料を食べ尽くしている……というのは冗談で、何か運搬経路に問題があったのでしょうか」


「実はそうなんです、ここ数日内陸から食糧を運んで来てくれる竜車が明らかに減っていて……盗賊に襲われたのかも、と心配して手紙を出したのですが、それも返ってこなくて……」


「なるほど。どの店にも昼には無くなるほど、というと明らかに異常ですね」


 とはいえ考えているだけでは昼ごはんが食べられない。


 ひとまず船に戻り、貯蓄分の食糧を昼食として食べるのであった。

 

「くっそー、俺たちの昼ご飯……!」


「パフィちゃんからもらったご飯も美味しいけど、あれだけ和食が食べられるって喜んでた後に保存食はきついなあ」


 三日間保存食を食べた私たちだが、違うことといえばニンナとフランが居ることだ。


「イザヨイは野生に生きる真の侍っス! この国の地理に関しては彼の横に出る者はいないっス!」


「なんかいつも笹の葉食べてますよね、あの人」


 今わかっているのはイザヨイという人物は男性の侍で、自然や野生に詳しいということ。


「それで彼はどこに住んでるの?」


「ああ、じゃあお昼ご飯を食べ終えたらアタシの故郷に案内するっス! そこにイザヨイが住んでるはずっスから」


「やった。あれ、でも良いの? シノノメに質問攻めするんでしょ」


 私の質問に、いつの間にか昼食を食べ終えたフランが口元を拭いながら答える。


「この旅のためにサユリ様から一週間ほど休暇を頂きましたからね。仕事はありますが、まだ時間はありますよ」


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