第1140頁 りゅう、つよく
「…………あ」
ティアが次に目を覚ましたのは、あの日から三日が経過した頃だった。
仰向けに横たわる彼女の視界には、心配そうにこちらを見つめるルカとルナが居た。
「……わた、しは……また仲間を……」
ティアにとって仲間や友人が目の前で連れ去られるという経験は二回目だった。
一度目は半龍族奪還作戦が決行される前、カザキたちに半龍族が拉致された時だ。
「仲間を……う、うう……ぐぅ……」
ティアは両腕で顔を隠し、しかし大きな嗚咽を漏らす。
嗚咽を漏らすティアに、ルカとルナはかける言葉も見つからない。
「ティ……」
ルカが励ましの言葉をかけようと口を開いた時、隣のルナがそれを制止する。
「……」
二人は落ち込んだ顔で看病道具の片付けをすると、静かに部屋を出て行った。
「あの時から何も変わってない……私はただ、仲間が連れされるのを……目の前で……!」
結局、見ていることしかできなかった。
風龍ティアマトとの縁も、肝心なところで発動しなかった。
何のための力だ、何のための縁だ。
いくら泣こうが喚こうが、アルトリアがオラシオン教団に連れ去られたという事実は変わらない。
後悔が堂々巡りに頭を巡り、その度に瞳から涙が溢れ出す。
一人の部屋で、ティアは何度も嗚咽するのであった。
・・・・・
ティアより一日早く目を覚ましていたルリは、アルトリアが連れされたという情報を意外にもすんなり飲み込んだ。
飲み込むしかなかった。
ティアがの目の前で半龍族が連れ去れた時、彼女は酷く落ち込んでいた。
おそらく今回のアルトリアはその時の比じゃないだろう。
だからティアの番として、ルリがしっかりしなきゃいけないのだ。
洗面台で顔を洗い、ルリは自分の瞳を鏡越しに見つめていた。
「大丈夫かい、ルリ」
「大丈夫じゃないです。でも、取り乱している暇もない」
ここは王都の王邸。
ルリに話しかけたのは王の紗友理だった。
「すまない、大切な時に居てやれなくて。アルトリアは何としてでも取り返そう」
「王様が謝ることではありません。……僕は、僕の無力さを実感できました。戦うための力が必要です」
「そういえばウォルロ・マリンのスイレンから手紙が届いたんだ。静紅がシノノメと合流出来たって」
そうだ、ルリたちが龍の遺産を探している間、静紅たちは船でウォルロ・マリンへと向かっていた。
元々オラシオン教団を壊滅させるための計画は進んでおり、静紅たちは戦力増強のためにマリンへと向かっている。
六花が取りつけた発信機で、教団の基地の場所は割れている。
あとは戦力が集まれば攻撃可能だ。
大丈夫、まだアルトリアは届く範囲にいる。
「教団の壊滅作戦には各国の王と騎士団が参加する予定だ。機密情報のため公表はされていないが、相当な戦力が集まる。そこでアルトリアを取り返そう」
「ありがとうございます」
雨降る王都が見える窓に寄りかかり、ルリはマフラーに顔を隠す。
「君たちが今やるべきことは、静紅たちとの合流だ。一通りの準備を行い、君たちはウルバロへ向かって欲しい」
そう言って紗友理は自身のサインが書かれた紹介状をルリに手渡した。
「ウルバロ……ウォルロ・マリンじゃ?」
「行けば分かるさ」
「そっか……」
国全体が工業特化の鍛治都市ウルバロ。
ドワーフが住まい、百年前の厄龍戦争では兵器工場として起動していた都市だ。
ルリは紗友理の紹介状を胸ポケットに大切にしまうと、彼女に礼を言って王邸の一室へ向かうのであった。
描写はされていませんが、三人が火山で気絶した後、黒龍ロミネが迎えに来てくれました。
ロミネは倒れた三人を見て驚き、急いで王都へ運びました。
王都へ運ばれた三人は医療の賢者ヘルスアの治療を受け、二日から三日間眠り続けていました。
ロミネは事情を起源の龍ソロモンへ伝え、仲間に怪しまれないよう一度オラシオン教団へ戻りました。
アルトリアの身が無事であることを祈るばかりですが、きっとロミネが何とかしてくれているはず……。
さいっこうに暗い状況ですが今回で第22.5章 ドラゴニアム・フォルティシモは完結です。
次回から第23章が始まる! と言いたいところですが、ここで一つ小休憩。
総集編を書きます! 次は第14章 セパレート・ファンファーレの総集編ですね。
総集編ってどこまで短くして良いのかわからないので難しいんですよね。
でも頑張りますよ!
というわけで!
物語本編が暗い分、あとがきくらいは明るく話そうぜって感じの作者でした!
 




