第1137頁 なをかんするりゅう
「これは創造主に対する冒涜かそれとも宣戦布告か? どちらでも良い、貴様には躾が必要だ」
「躾? ああ、望むところだ炎龍ファルル! 貴様がリアの身体を乗っ取るなど我は絶対認めない! 貴様に勝利し、我は貴様の意思を否定する!」
そう言った彼の意志は氷よりも硬く、炎よりも熱い。
獄炎を纏うアルトリアの中には炎龍ファルルが乗り移っており、火炎耐性の低いアルトリアの服がところどころ焼けている。
周囲にはバチバチと弾ける火花が充満し、触れるとたちまちドカンだ。
「否定? くふ、ははっ……其方らの中で一番反抗するのはルリだと思っていたが、まさかここまでとは。面白い、全力で掛かって来い」
気配と威圧こそ悍ましいものの、身体能力や魔力自体はアルトリアベースなので脅威ではない。
おそらく彼が出している炎は魔力に関係なく出せるもので[炎龍]の名を冠するに相応しい力だ。
「ああもう、気持ちはすごくわかるけどさ! 世界を作った神様に喧嘩を売ろうって本当に……ルリらしいというかなんというか……!」
呆れたような顔でティアも戦線へ出ていき、龍の力を指先に込めて龍の爪を顕現させた。
「龍化六割・靭ッ!」
「ティアマトの子孫、其方の風龍の縁もまだ成っていない。良い機会だ、ティアマトに免じて此方が稽古を付けてやろう。少々厳しいが、それで其方が死んだらそこまでの存在だったということだ」
口元を緩めるファルルを見て、レナは「今のうちだ」と言わんばかりに息を潜めて神殿の脱出口へ向かう。
爆発性の粉塵によって退路は塞がれているものの、レナの冷気があれば何とかなるかもしれない。
「仲間が戦っているというのに、一人だけ背を向けるのは関心せん。いつ此方が逃げて良いと言った」
ファルルは片手を前に出し、渦巻く獄炎をレナの方へ放出する。
その炎は時速六十キロメートルを超え、気づいた時にはレナの目の前まで来ていた。
「レナ!」
叫ぶルリだが、炎が止んだ後の光景を見て一瞬安堵する。
「はあ……危ない、あれを受ければひとたまりも無いな」
レナは前方に炎でも溶かせない氷塊を作り出し、それを壁にして獄炎を防いだらしい。
「ルリ、ファルルはどこに行ったの!?」
「あっ!? 今さっきまでそこにいただろう!」
冷や汗を拭うレナの氷塊の上に、ファルルは音もなく着地する。
氷塊の先端に立つ彼は見下すようにレナを睨むと、歯を見せて笑う。
「ひとたまりも無いのは炎だけでない。敵の武器が一つとは限らないだろう?」
ファルルは氷海から飛び降りると、レナの脳天へ全体重を乗せた踵落としを繰り出した。
がごんっ、という頭から鳴ってはいけない音と共に周囲に衝撃波が走る。
「レナ! おい、大丈夫か!」
「あ、が……」
レナはその衝撃に耐えきれず、鼻血を出したまま白目をむいて地面に倒れてしまった。
ティアはその光景を見て、王都でレナと話したことを思い出す。
────本気で危ないと思ったら、そのときは我たちで止めれば良い。
「止めれば良い……?」
数歩下がりながらティアはファルルの強さに恐怖する。
「怖気付くなティア、我が隣に居る。今の我たちがどれだけの力を持っているのか試す良い機会だ。流石の炎龍ファルルも殺しまではしないだろう」
震える手をルリは力強く握る。
しかしその震えは握った後でも続いており、ティアの心境を露天させる。
レナの頭を蹴り飛ばしたファルルは熱を伴う溜め息を吐くと、黒いサングラスを掛け直して伸びをした。
「ルリの言う通り。其方らもソロモンから聞いているだろう、近々世界が崩れるほどの大厄災が起こると。人類はそれに対抗するための力を蓄えなければならない」
「我は確かにそう言ったが、貴様のことは許していないからな。必ずリアを返してもらう! 行くぞ、ティア!」
「うん! 風属性魔法・風砲ッ!」
白銀龍と風龍の番と炎龍ファルルの戦いが、今始まろうとしていた。
強大な力を前に震えるティアですが、ルリに手を握られたことで戦意を取り戻しています。
それだけティアにとってルリの存在が大きく、元気の源なのでしょう。