第1131頁 えご
二時間遅れの投稿です!
「……! 嫌だ、やめろ!」
足に瓦礫が突き刺さり、重いように動けない兵士。
その男性は片手で剣を持ち上げると、迫り来る[敵]に対して無様にソレを振る。
それは威嚇にもならず、グルルと唸る龍たちは兎を狩る虎のような目で兵士を壁へ追い詰めた。
仲間の兵士は龍に食われ、既に西区の基地は壊滅状態。
今ここで生き延びたとしても、その後の生存は厳しいだろう。
そう分かっていたとしても、眼前に迫る恐怖に対して兵士は逃げることしか出来なかった。
嘲笑うように口元を歪めた龍は次の瞬間、刃よりも鋭い風を召喚し、兵士へ飛ばした。
地面の石が削られる様子を見て、兵士は死を確信する。
あまりの恐怖に目を瞑る兵士。
その時、風刃と兵士の間に一人の男が着地した。
「う、おおおッ!!」
男は二メートルを優に超える大斧を振り下ろし、迫る風を断ち切った。
「あ、あんた……今、龍の魔法を……!」
「驚くのは後だ、今すぐここから離れるぞ」
言って、大男は足を負傷した兵士を担ぎあげた。
「……無理だ、龍から逃げることなんて出来ない! 奴らは見た目に反して速い!」
「俺は逃げるとは言っていない。離れると言ったんだ」
一定の距離まで離れた大男は兵士を下ろし、足の応急手当を開始した。
「離れるって……つまりどういうことだ?」
「仲間の攻撃に巻き込まれるほど、無意味な死は無い」
大男のその言葉のすぐあと、逃げてきた方向から落石のような轟音が聞こえてきた。
「母さん!」
「合わせるよ、アルトリア!」
二人の犬獣人は息を合わせ、地龍の遺産を掲げる。
掲げられた地龍の片鱗は黄金に輝き出し、目の前の龍へ大岩を降らせた。
流石と言うべきか、アナスタシアの生み出した大岩の方がサイズも威力も大きい。
全長六メートルほどの龍へ降る岩は火属性を伴う爆発を起こし、龍たちへ大ダメージを与えた。
「退きなさい龍よ! 私は封龍の巫女、これ以上この地を荒らすなら、私は容赦しない!」
アナスタシアが巫女としての威厳を見せつけるようにそう言い放つと、龍は怯んで動きを止めた。
「いい? 封龍はね、へその辺に力を込めて思い切り息を吸えば─────!」
肺に大量の空気を取り込み、アナスタシアはアルトリアに教えるように封龍の力を解放する。
彼女の手のひらが白く輝き出し、その光を浴びた龍はたちまち弱体化していく。
具体的に言えば、戦意を喪失したような感じだ。
「わ、私もやってみる……!」
見様見真似で封龍の力を使用すると、アナスタシアほどでは無いがアルトリアも手から輝きを放ち出した。
唸り声を上げていた龍はすっかり大人しくなり、小さなトカゲのようになっていた。
「よーし、いい子だ」
微笑みながら龍の顔をぺたぺた触るアナスタシアに、アルトリアは青ざめた顔で立ち尽くす。
「ひぇ、い、いいの!? 今のうちにトドメを刺さなきゃ危ないよ!」
ペットと戯れるように龍を触りながら、アナスタシアは言う。
「痛みはさっきの大岩で充分だよ。それに封龍の力を受けて弱体化したこの子たちを、私は殺せない。さっきの赤い龍みたいな暴走してる奴は別だけどさ」
「でも龍は大勢人を殺したんだよね? それくらい私も知ってるよ、人類の半分以上が龍や精霊に殺されたって……」
「……種族で決めるのは良くないよ、アルトリア」
「!」
「世界を巻き込むような戦争中に、こんなことを言うのはおかしいと思ってる。ただのエゴでしかないってことも分かってる。でも知っちゃったんだ、龍や精霊の中にも優しい子は居るって」
「それは……そうだけど……」
アルトリアも分かっている。
一括りに獣人族だからといって、村人に殺されそうになった過去があるからだ。
とはいえここにいる龍が今、目の前で動けない兵士を頃そうしていたのは事実。
それ以外にもこの基地にいた兵士や人間を何十人も殺したのだろう。
そんな龍を放置しておくのは危険すぎるとも彼女は思っていた。
「事実、この龍たちは人間を殺そうとしてた! 人間の味を覚えた熊のように、龍だって……!」
力強く訴えるアルトリアの背後から、二人の足音が聞こえてくる。
「俺も同じ事を言ったが、アナスタシアの価値観が変わることは無かった。言っても無駄だ」
「何それ、私がわからず屋みたいな言い方!」
ぷくーと頬を膨らますアナスタシアへ、カゾールは近づくとその頭を軽くコツンと叩いた。
「まあなんだ、無闇に殺す程でもないだろう」
「でもこの龍は人を──────」
アルトリアの言葉を遮るように、アナスタシアは口を開く。
「それが外的要因によって引き起こされる、龍の意志とは反する行為でも?」
「え……?」
「戦いは終わった、負傷者を集めつつ少し話をしよう。龍と[瘴気]についてね」




