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第1128頁 ぼうそう


 厄龍戦争の時の境界へやってきたアルトリア。


 青年の兵士に半強制的に連れていかれ、彼女は燃える医療地を目の当たりにする。


 赤十字の紋様が刻まれた白テントを蹂躙するのは、龍の中でもかなり上位の強さを持つ存在だ。


 青年の兵士は戦地までアルトリアを連れてくると、さらに速度をあげて燃えるテントの方へ走って行った。


「巫女様! よろしくお願いします!」


「分かった、龍は任せて!」


 彼女の首には遺産が二つかかっており、アルトリアの身体機能は通常時の倍以上に増大している。


 封龍の力も合わせれば、龍の一匹や二匹、彼女の敵ではないのかもしれない。


 重量のある鎧をもろともせず走っていく兵士は、誰かの名前を叫びながら燃え盛るテントを持ち上げている。


『茶髪の犬獣人……封龍の巫女だな』


「そっか、普通の龍も人の言葉を話せるんだっけ」


 軽く跳ねたりして準備運動を行うアルトリアは、次の瞬間剣を構えると、龍の前足を踏み台にして高く飛び上がった。


 まるで空を舞うように飛び上がる彼女は、愛剣ペンデュラムの剣先を龍の鱗に突き刺すと、そこから爆発性の粘液を大量に放出する。


 周囲千メートルに響くほどの爆発音と共に龍の鱗は破壊され、龍は大きく咆哮をあげる。


『貴様、何をして……爆発魔法の気配は何も感じなかったはず!』


 続けて数発の爆発を起こし、アルトリアは龍の背を駆けて顔の方へ移動する。


『巫女だろうが所詮は人間、我が業火で焼き尽くしてくれる!』


 それでも流石は龍。


 アルトリアが触れれば一瞬で爛れた肉塊になるほどの業火を、ノータイムで吐き出しそれを周囲に振りまいた。


 火炎の粉塵が空から降り注ぎ、それが彼女の服に触れると一瞬で焦がしてしまった。


「肌で触れたらまずそう……! 風龍ティアマト、力を貸して!」


 アルトリアは過去の記憶で見た母の所作を見様見真似で模倣し、風龍の鋭牙を空へ掲げた。


 刹那、彼女の右手がブルブルと震え出し、手の甲からアルトリアが想像していた十倍以上の威力で強風……否、爆風が飛び出した。


「う、うわあああああッ!?」


─────待ってこれ、何か違う……変だよッ!


 制御しきれぬ威力の爆風を前に、アルトリアの服と鎧はどんどん剥がれていく。


 爆風により、火炎の粉塵は吹き飛んだものの、アルトリアの腕からは未だ爆風が吹き続けている。


 螺旋を描く爆風はまさに竜巻と呼ぶべきもの。


 腕にかかる負荷は骨を痛め、彼女は涙を流しながらどうにかこの暴走を止めようとジタバタするが、龍の遺産から注がれる膨大な魔力が尽きることはない。


 ジェットパックの要領で背中から爆風を噴き出す赤い龍は、地に寝そべるように叩きつけられる。


『人間、今すぐその風を止めよ! 忌々しい……ティアマトの風など浴びさせよって……ッ!』


「私だって止めたいよ! でもどうやっても止まらないんだッ!!」


 痛みによる涙で視界が濡れていく中、アルトリアは遺産をどうにかして首から外そうと力むが、磁石で張り付いたように外れない。


 呼吸もままならなくなってきた頃、百年前のこの空間で、聞いたことのある声が飛んできた。


「─────封龍の力を解除して!」


 聞いたことのある声、ずっと聞きたかった声、初めてこの耳で聴いた声。


 なるほどアルトリアとそっくりと言われるわけだ。


「封龍の解除……!」


 ずっと力を込めて離そうとしていたものが封龍を解除した途端、効力を無くして消えてしまう。


 乱れる鋭牙はようやく落ち着き、腕から放出される風も止まった。


「ああ、ありがとう……誰かはわからないけれど助かったよ……」


「安心するのは早いぞ、龍がまだ生きている」


「─────ッ!」


 女性の声とはまた別に、大柄な男が龍の背に飛び乗ってきた。


 その体格に似合う大きな斧を持った、毛むくじゃらの男。


 アルトリアは思わず口元を抑えて目を見開いていた。


「カゾール……!」


 そこには目の前で殺されたはずの恩師、毛むくじゃらのカゾールが居た。


時の境界は裏を返せば、死者と出会える不思議な場所ですね!

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