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第1124頁 かんし

 市役所に残ったアルトリアとレナは待合のソファで雑談をしている。


「レナさんは王邸でどんなことをしているの?」


「呼び捨てで良いよ。我は……そうだな、部屋で本を読んだり、庭の周りを散歩したり、あとはたまにメイドの手伝いもしているぞ」


「おお、それは偉いね! 本ってどんな本を読んでるの?」


「うーん、最近は野菜の育て方という本を読んだな。ほら、我は氷の龍で農作物に対して無意識に害を与えてしまうから、寒さに強い野菜は無いかなって探していたんだ」


 語るレナの表情は柔らかく、希望とやる気に満ちていた。


「野菜かどうかは分からないけど、寒さに強い花なら知ってるよ。私の故郷にたくさん咲いてたからね」


 そう言ってアルトリアは懐から皮袋を取り出し、そこから小さなタネを摘み上げた。


「アルトリアの故郷の花?」


「名前も何も知らないけどね。雪みたいに白い綺麗な花なんだよ」


 アルトリアは自分が摘んだタネをレナの手に乗せると、きゅっと握らせて微笑んだ。


「いいのか、もらって」


「いつかレナちゃんが咲かせた花、私に見せてね」


「ありがとう……約束する、必ず王邸の庭にこの花を咲かせてみせる!」


 そんな話をしていると、市役所の女性がカウンターの奥から出てきた。


「お待たせ致しました。あれ、他の方は?」


「強盗を騎士団に引渡しに行ってるんだ。話があれば我たちから伝えておくから、まずは聞かせてくれ」


 レナの言葉に女性はこくりと頷くと、この山の地図とどこかの鍵をレナに手渡した。


「例の火山は街の東にあります。山の麓に登山道の入り口がありますので、そこにいる警備員にこの鍵を見せれば中へ通してくれるはずです」


「頻発する落石の原因、だったよね。必ず原因を見つけてくるからね!」


 アルトリアは女性にそういうと、立ち上がって市役所の出口の方へ歩いて行く。


 そんな彼女の背を見て、女性は胸に手を当てたまま、去り際のアルトリアに声をかける。


「あ、あの! 素敵な首飾りですね、すごく似合っていますよ」


「首飾り? ああ、これか。ありがとう! あなたの香水も素敵だよ」


 そう言ってアルトリアは市役所の扉を閉め、眩しい日光を浴びる。


「良い天気、ここまで晴れてると何か良いことが起きそうだよね」


「あはは、そうだな。まずはルリたちと合流しよう。山登りはそれからだ」


 二人は街の看板を見て、近くの騎士団がある場所へ歩いて行くのであった。



・・・・・



「協力、感謝する」


「うむ、こちらとしても臨時収入で嬉しいのだ」


 銀貨が三枚入った袋を握り締め、ルリとティアは騎士団の外へ出て行った。


「山に登る前に水とかお弁当を買って行こっか」


 二人は街の飲食店に入ると、氷水に入っているビンと常温で置かれたお弁当をそれぞれ四つ購入した。


「美味しそうなお弁当、それとティアとの登山! ふふ、なんかハイキングみたいなのだ」


「お気楽だねえ……私は心臓バクバクで大変だよ」


「大変?」


「アルトリアだよ、何もなければいいんだけど……」


 ティアが猫背気味で歩くのは、人の往来が盛んな大通り。


 特に通行人に意識せず歩いていると、突然、男性がティアに耳打ちをした。


『オラシオン教団は常にあなたたちを監視しています』


「え……!?」


 男性の声に驚き、すぐに振り返るがそこにあるのは、後方へ歩いて行く人だかりのみ。


 一瞬にして見失ったティアは、青ざめた顔でルリに相談した。


「何、オラシオン教団……?」


 二人は急いでアルトリアたちとの合流を図り、五分ほど探したのちに四人は再び合流を果たした。


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