第1122頁 ふあんときゆう
風龍の鋭牙と同じく、光を放出した地龍の片鱗に首飾りの紐が通され、アルトリアの首に納まった。
「大丈夫、アルトリア?」
ずっと座り込んでいるアルトリアを見て、ティアは小さく声をかける。
「うん、大丈夫! 龍の遺産の力が強くて、ちょっとびっくりしただけ」
「びっくり?」
「うーん、なんて言えば良いのかな。これを遺した龍たちの感情が聞こえるんだ。その感情にちょっと驚いただけだよ。それよりほら! 地龍ユグドラシルの遺産も無事に入手だね!」
「うむ、そうだな! 一日で二つも見つけたぞ、この調子で残りの二つもぱぱっと入手してしまうのだ!」
拳を突き上げて喜ぶルリだったが、彼の言葉のすぐ後「ぐぅー」と大きく誰かの腹の虫が鳴いた。
「あはは、まずは夕食だね。夜は冷えるし、今日は王都に泊まっていこう」
「やった! 晩御飯だ!」
子供のように喜ぶアルトリアをみて、ティアとレナもつられて笑う。
その日の夜は王都の飲食店でお腹がいっぱいになるまで食べ、一度家に帰って夜を明かすことになった。
・・・・・
二階の寝室でアルトリアとルリが大の字で眠る中、一階のリビングでティアとレナはホットミルクを片手に椅子に座っていた。
「なんだか悪いな、私も家に上がっちゃって」
「いいよいいよって言いたいところだけど、私もこの家の人じゃないんだよね。アルトリアが遠慮しないでって言ってくれたんだし、気にしなくていいよ。シズクもきっとそう言ってくれるはずだしね」
ティアは一口ホットミルクを飲むと、題を変えるようにことんと机にカップを置いた。
「レナはさ、アルトリアについてどう思う?」
「え……? どうってそりゃ、未熟な巫女として頑張ってると思う。ティアだって目の前でその姿を見ただろ?」
「それはそうだけど、無理してるんじゃないかって」
「無理? ああ……」
レナは腕を組み、王邸の地下でアルトリアの受け答えがぎこちなかったことを思い出す。
「心当たりあるでしょ? 数百年前の遺産とはいえ、創世記時代の龍の力が込められたものを複数持つなんて危険なんだよ……」
ティアは腕を組んだまま「ましてやアルトリアみたいな子供に……」と小さく呟く。
「ティアの気持ちも分かるし、心配だと我も思う……でも他人のために頑張っている人を危険だー、って止めても無駄じゃないか?」
「……! それはそう、だけど……」
ティアも[そういう人間]だから、レナの言葉を飲み込むしか無かった。
「本気で危ないと思ったら、そのときは我たちで止めれば良い。仮にも我たちは半龍族だ、未熟な封龍なら止められる」
「分かったよ……」
「次はクラ=スプリングスの火山地帯に向かうぞ。そのために我はここに残ったんだからな。目標はもちろん炎龍ファルルの遺産の入手だ」
次の目的地について話すレナの言葉を聞き流しながら、ティアは自分の考えが杞憂であって欲しいと静かに願うのであった。
全ての遺産を集めた時、アルトリアを待ち受けるのは───。




