第1119頁 まがまがしいはこ
王邸の地下へやってきたルカ、ルナ、レナの半龍族グループ。
ランタンの灯りを頼りに地下の謎空間を探索している彼女たちは、通路の奥にあるものを発見した。
「羊皮紙? レナちゃん、灯りを」
「ほいほい……っと、随分古そうな紙だな」
地下の通路は水路のようになっており湿っていて、羊皮紙にはカビが生えていた。
三人は押し合うように紙を覗き込むと、ルナを覗いて「あ、読めない」と後ずさった。
「古代文字……ルナなら多少は読める」
腰に手を当ててドヤ顔を浮かべるルナに、ルカはパチパチと拍手を送る。
「さすが最高の妹ルナなの!」
姉に褒められたルナは満面の笑みで古文書を読み進めていく。
「どうやら大精霊の召喚方法についてらしい。書かれたのはおそらく百年以上前……」
「羊皮紙の状態からして、百年間ずっとここにあったってわけじゃなさそうだな。ここに持ち込まれたのは約八年前ってところか」
レナは八年前、王都で起きた大精霊召喚事件についてを思い出しつつ、そう言った。
「大精霊……精霊の中で最も龍に近しい存在。今思い返すと、人間なんかがよく勝てたと思う……」
「まあ勝てたのは奇跡なの。大精霊は下手すれば普通の龍より強いからねえ、シノノメ様やマカリナ様がいなければ確実に王都は滅んでたの」
大精霊について書かれた羊皮紙を手に入れた一行は、通路の奥に扉を見つけ、その奥へ行った。
水路の奥へ行くと、見えないほど高い天井のフロアにたどり着く。
床には拘束具のようなものが散乱しており、過去にここで何があったのか容易に想像が可能だった。
「……姉さん、あそこの壁から異様な魔力を感じる」
ルナが指さしたのは、一見何もないように見えるただの壁だった。
周囲に足跡はなく、ここ十数年は誰も通っていないようだ。
「そうか? 我には何も感じないが」
「ルナの超人的な魔力探知がないと気が付かなかったの。かなり高度な隠密魔法が使われてるの」
「術式的にかなり昔のもの……少なくとも百年は昔」
ルナはその小さな手で壁に触れると、魔法を容易く解除してそこに通路を出現させた。
「うわ、明らかにやばい通路だろ……」
百年間密閉により熟成された土の魔分子が怒涛の勢いで外界へ放出され、三人の髪は大きく揺れる。
「土の魔分子……うん、地龍ユグドラシルの遺産があるかもなの!」
「まあそう見るのが妥当だな。行ってみるか」
百年ぶりに開かれた秘密の通路。
蜘蛛の巣がたくさんかかる不気味な通路を進んでいくと、通路の奥に苔生した部屋を見つけた。
「この部屋だけ明らかに植物の成長が著しい。姉さん」
「はいな!」
ルカは一番植物が生い茂っているであろう箇所に火の玉を飛ばす。
その方向には[世界樹の治癒室にあった絡み合う樹]に近しいものがあり、火球によって壊れた木の中から、禍々しい気配を感じる箱を発見する。
「いや、これは……明らかにやばいやつなの」
「うむ、疑う必要もなく、完全にこれが龍の遺産……」
「よーし、発見だな。持ち帰るか?」
気配を無視して箱に触れたレナに、突然とてつもない寒気が襲いかかる。
自分では到底太刀打ちできないような、絶対的強者に睨まれたレナはすぐに箱を地面に投げつけ青ざめた顔で叫ぶ。
「うぎゃああっ!! んだこの箱……! 一瞬、背後から誰かに睨まれたような……」
「ママたちが言ってたように、やっぱりアルトリアさんの封龍が無いと触ることすらできないみたいなの。ありがとレナちゃん、人柱助かるの」
「人柱って……うう、我をもっと労わってくれ……」
ひとまず王邸の地下で無事? に龍の遺産を発見した三人。
迷わないよう記録していた地図に大きく丸をつけて印をつけると、三人は一度地下から脱出するのであった。
龍の遺産の呪いは保管している箱に付与されています。
ここ呪いは箱に触れた生物が[遺産について知っているか][悪用しようとしているか][生物本人の魔力の強さ]を判断して、相応の不快感を与える効果があります。
今回を例にしてみると、レナは遺産について知っていて、悪用はしていません、半龍族なので魔力はトップクラスですね。
だから何者かに睨まれたような恐怖をレナに与えました。
 




