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第22頁 野宿とか久しぶりだわ……

「ふぅ……さすが王都近衛騎士団って呼ばれるだけあるな」


 王都を出発して4時間ほど経っただろうか。


 王都から南西に向かって伸びるこの道、国道・南西道を竜でひたすら縦断した私たちは、東の地平線に太陽が沈んで行ったことを理由に国道沿いにキャンプを設営し、ここで寝泊まりすることにした。


 私が王都近衛騎士団を称賛する理由は至って明白で、普通なら竜に乗って疲れているはずなのに、武器の調整を行ったり、矢のストックを確認したり、回復薬等のアイテム整理をする人がほとんどなのだ。


 これに流石の私も驚き、思わず呟いたという訳である。


 今私たちが休憩をしている仮キャンプ設営地はアウトドア用のテントとは大違いで、例えるなら……戦争中の仮医療施設って感じのテントが6つほど無造作に建てられている。


「王都近衛騎士団……一体何者なんですかね。ボクたち、何も知らないのに勢いだけで着いてきちゃってますけど」


 その心配そうな言葉に耳を向け、私は疲れた体に残った体力を振り絞って顔を上げた。


 そこには、寂しそうな小動物の目をした六花が焚き火に温まるため、手を伸ばしていた。


「そうだね……ていうか私たち、初めて王都に到着して、二十四時間も経ってないのに出発って超多忙人じゃん! せっかく異世界に来たのにこんなに忙しくてどうすんだよー!」


「こんな状況ですし、そんなことも言ってられませんよ。まあボクもさすがに疲れましたが。キノコタンの森からのSOS……静紅さんはどう見ますか?」


 そう言えばそうだったな、こんなにドタバタしてるのもキノコタンの森からのSOSが届いたからだ。


 その事実をしっかりと受け止め、私は口を開く。


「うーん、あのルイスの事だし、誤報ってことはまず無いよね。SOS……緊急事態ってことは考えられるのは三つかな」


 私は三本の指を立てて、しっかりと六花の視界に入れる。


「一つ、ルイス達が手を離せないほどの状態にある。二つ、何らかの原因で被災した。あるいは……」


「何者かの襲撃と侵略」


 予想外の声が飛んできたことに私は驚き、思わず振り向いた。


 そこには紅茶で一服したのか穏やかな表情をしている紗友理がいた。


「何者かによる襲撃……?」


「そう、例えばそうだ……ドラゴン、龍とかね」


「「ドラゴン!?」」


 ドラゴン。それは日本で、伝説上の生き物として物語に出てくる存在だ。


 私たちが転移してきた直後、空へと飛んでいく姿を見たので一応接触済み……ということにしておこう。


 その巨体に備わった、巨大な翼や鋭い牙は思い出すだけでも嫌になるほど恐ろしい。


「まあこの世界だと龍の方が浸透しているね。竜と龍は同じ同音異義だから注意してね」


「その龍が森を襲撃したって、どう言うことですか?」


「そう焦らなくてもいい、まだ仮説の話さ」


 彼女はテントの入り口から中に入り、テント内の大柱に取り付けられたランプを整備しながら続けた。


「龍は人を襲う凶暴な生物だ。日本では生態系の頂点は人間だったが、この世界は違う。魔物よりも、精霊よりも上の存在……それが龍」


 その彼女の言葉の裏には、憎しみや悲しみなどの負の感情が混じっているようにも見えた。


「私もね、この世界に来たときは君たちのように友人と一緒だったのさ。でもね……うん、ある事件に巻き込まれた私の友人は龍に殺された。だからなんだろうね、私の中に先入観というか……この世の悪いものは全て龍が元凶なんじゃないかと思ってしまうんだ」


 突然紗友里の口から知らされる過去は私の思っていた以上に残酷で、言葉の1つも出ない。


 何も言えず困っている私を見て、紗友里はすぐに優しく微笑んで口を開いた。


「大丈夫、静紅が心配するような事は無いよ。私もなんの対策もしていない訳じゃない…例えばこの[王都近衛騎士団]だったりね」


「あの、王都近衛騎士団って……」


 何度も聞いた単語だが、その事については何も知らない[王都近衛騎士団]。


 その存在を確認すべく、六花は手を挙げて紗友里に質問した。


「ああ、王都近衛騎士団……この国にもいくつか騎士団があるんだけどね、その中でも最も優秀な人材が集う騎士団さ。私もなかなか剣術に自信があるが、死んだ友人がどうしてもと聞かなくって。当時は仕方なく作ったこの騎士団も、今や信頼できる存在だよ」


「なるほど……それで具体的に騎士さん達の腕前はどのようなものでしょうか」


 ぐぐっと身を乗り出して六花は更に質問を進める。


 六花のその姿勢に流石の紗友里も口元が緩んだのか、


「あははっ、六花は面白いね! なら一戦交えてみるかい? 騎士たちも相当腕がなまってるだろうし、準備運動がてらに軽ーくね」


 紗友里の最後の方の言葉……なんて言った?


 一戦交えてみる……?


 んー、そりゃ気にならない訳じゃないけど。


「その提案、乗りました!」


 六花は自信満々のガッツポーズ。


 既に勝利はつかんだという気持ちなのかな。真面目な六花は一体どこに行ってしまったのやら。


「よし来た! それならすぐ戦闘準備をして広さのある場所に移動するよ。ルカ、ルナ聞いてたね、近衛騎士団達を広場に集合させておいてくれないかい?」


「分かったの!」


「なんなりと……」


 なんで紗友里はそんなに乗り気なの!? そしてルカとルナはどこから出てきたんだよ。


 そんなこんなで六花VS近衛騎士団の模擬戦が始まったのであった。




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