第1112頁 わるいそしき
「ロミネとソロモンはその龍の遺産を手に入れて何がしたいのだ? 我たちにどんなメリットがある」
「それは私から話すわ。ルカもルナも聞いて頂戴ね。端的に言うと─────」
両手にしがみついていたルカ&ルナを床に降ろし、ソロモンは語り出す。
「厄龍戦争が今、再び起きようとしているの。その対抗手段として、龍の遺産が必要なのよ」
「「「!?」」」
一同が目を見開き、耳を疑った。
しかしそれは聞き間違いなどではなく、ソロモンはハッキリそう言った。
「厄龍戦争が起きようとしてるって……そんな、何を根拠に!」
「自分がオラシオン教団に入ったのは金集めが理由だった。しかし話を聞けば連中は[龍を従え、世界を滅ぼそう]としているようだ。連中はまだ気がついていないが、このまま聖典[新世界秩序]に従っていると十中八九戦争が起きる。そんな組織を放っておくわけにはいかないだろう?」
「……教徒たちの盲目さは知ってるし、厄龍戦争時代に人々の避難所だった世界樹を壊そうとしてたのも知ってる。連中はまた避難されないように世界樹を壊そうとしてたんだね」
見守る世界樹を壊すことで、あの近辺の住民たちを確実に殺す準備を整えていたのだ。
「新世界秩序は全ての項目が達成すれば理想郷に連れていってくれる聖書って聞いたけど、どうやら違うっぽいね」
「[救われたい]という気持ちをダシにして、教徒に戦争の準備をさせていた。きっと理想郷なんてのも嘘だろう」
「おうおう、何とか教団っていうのは知らないが、クソみたいな組織っていうのは分かったぞ。今度またあんな戦争が起きれば、今度こそ世界が終わりそうだ」
レナは拳をぶつけ合い、周囲に冷気を放つ。
人類の過半数が死に、様々な技術や書物が失われた厄災。
五十年ほど前に復興作業がほぼほぼ終わり、ようやく発展してきたこの時期に再び厄災が起きれば確実に世界が終わってしまう。
「オラシオン教団は教徒の数と教会の数が桁違いに多く、厄災を阻止するのはもはや不可能。私たちに必要なものは一つ。厄災を退ける術よ」
「そこで龍の遺産が必要ってわけだな。状況は把握した、世界が終われば我たちも生きていられない。ここは正式に協力関係を結ぶとしよう」
ルリはロミネに向かって手を伸ばすと、ロミネは躊躇うことなくその手を強く握る。
「人間との交渉用の資金、使わなくて済みそうですね」
「ええ。じゃあみんな、龍の遺産探しお願いね。大体の目星はこの紙に書いてあるわ」
ソロモンから紙を受け取り、一行は[龍の遺産]を求める旅に出る。
いち早く神殿から出たルリは、ロミネと繋いだ右手を静かに眺めていた。
「どうしたのルリ」
「師匠とちゃんと話せたのが嬉しかったんだ」
「ルカはママに会えたから満足なの!」
「ルナも満足……だけどおそらく本題はここから。龍の遺産を確保して、厄災に備えないと」
ルナは母からもらったメモを開き、それぞれの場所を読み上げた。
「風龍はこの村にある[禁忌の倉]、炎龍はクラ=スプリングスにある火山の山頂、海龍はウォーター・シェルの海底、地龍は王邸の地下……」
「回収に封龍の力が必要な以上、手分けは厳しいか?」
「回収は出来なくても、正確な場所は知れるはず。ここは二手に別れて素早く集めよう」
というわけで一行は、ルリティアアルトリア、ルカルナレナの三人一組に別れて龍の遺産探しに向かうのであった。
ここに来てクラ=スプリングスたちが活躍します!




