第1110頁 たちいりきんし
ロミネに対する警戒を解かず、後ろを着いていく一行。
「姉さん、このままついていって良いのかな……?」
「ううーん、ルカもよく分かんない。アルトリアさん」
ルカはアルトリアに意見を乞うように彼女の名前を呼ぶ。
「ついていけばきっと何かある。少なくとも今のロミネに敵意を感じなかったから、誘って襲おうなんてことはないはずだよ」
引き続きロミネについていくと、とうとう北部の森を抜け、山の麓に到着した。
そこには立ち入り禁止と書かれた看板が立てられており、老朽化していることから看板が立てられてからかなりの時間が経っていることがわかる。
「そうだ、この森の奥は……」
ルリは何かを思い出したように顔をあげ、やっぱりあったというように看板に触れた。
そんな彼の行動と看板を無視して、ロミネは平然と山の登山道に足をかける。
「ああっ!? た、立ち入り禁止の場所は、立ち入り禁止なんだぞ! フローダムの村で掟破りは大罪だ!」
個々の力が強大な半龍族だからこそ、村の統率を図るためのルールや掟は厳しいのだ。
それはロミネも知っているはずなのに、ルリの静止を聞かずにロミネはどんどん登っていく。
「ああもう、どうにでもなれ……!」
頭を掻いてレナは登山道に足をかける。
「正気なの、レナちゃん!? 立ち入り禁止ってことは、きっと何か危ないものが……」
「もしくは、誰にもみられたくないような、秘匿の何かがある。危険を犯すくらい、森に入った時から覚悟している」
「ルナまで!?」
レナに続いてルナ、ティア、アルトリアと次々に登山道に入っていく。
「……掟破りは大罪だ。それでも、そうだとしても我は真実を知りたい」
「わっ、み、みんな行っちゃうの? 待ってよ……!」
一人で森に残るのも危険だ、と判断したルカは彼女にしては珍しくへっぴり腰になりながら、山を登っていく。
山はそこまで高くなく、小一時間も登れば頂上に着いた。
・・・・・
北の山の頂上、そこには廃れた神殿のようなものがあり、そこにロミネは入っていった。
「こんなところに建物があったなんて……ルリ、知ってた?」
「いや、全く……」
長年この村に住む二人でさえも知らない神殿に、一行は興味をそそられるばかりだ。
「姉さん」
「うん、ロミネさんに気を取られて気が付かなかったけど、ここって……」
「母さんの魔力を感じた、あの山の上の神殿」
「何……!? じゃあルカルナの母さんはロミネに捕まってるってことか!?」
「だったら尚更急がなきゃいけないだろ、行くぞ!」
ルリとレナは急いで神殿の中に入り、通路の奥、祭壇のところまで走ると、その場の光景をみて絶句した。
「な、何なのだ……これは……」
「ルリ! 何を見たの、大丈─────!?」
ルリに続いてアルトリア、そして全員がその光景……否[彼女]を見て言葉を失った。
「ソロモン様、連れて来ました」
『ここまで遠かったでしょう……昇降機を付けようか迷っているのだけれど、やっぱり山登りも楽しみたいじゃない?』
ソロモンと呼ばれたそのあまりに大きすぎる龍は、ギロリとした目で一行を見る。
『よく来たわねみんな、歓迎するわ』
ソロモンの巨体に驚く一行の中、ウズウズと辛抱たまらない様子のルカとルナ。
彼女たちはソロモンの言葉のすぐ後、飛び出して言う。
「ママ!」「母さん!」
「「「ママッ!?」」」
刹那、ソロモンは全身を白い煙で包み、人間の姿となってルカとルナに向かって飛び出す。
「ルカ、ルナ!」
ソロモンは両腕で二人を強く抱きしめると、頭をワシワシと撫で始める。
その光景はまさに久しぶりに再会した母親と娘で、他人が付け入る暇も隙もなかった。
「い、一体どういうことなのだ……? あの大きな龍が二人の母親ってこと……?」
混乱するルリを見て、ソロモンは咳払いを一つして言う。
「私は起源の龍ソロモン! 過去と未来、全ての龍の起源となる存在。気安くママって呼んでね」
そう言ってソロモンは両手でハートを作り、ぎこちないウィンクを作った。
「わあっ、ママ可愛い!」「母さん、最高」
人間の姿のソロモンとしては、ルカ&ルナと同じ月光のような銀髪、服は何故か若々しいセーラー服を着ており、人間の年齢ではだいたい三十代ほどの顔立ちをしている。
そんなソロモンを見てレナは。
「うわキツ」
遠巻きにそう言うのであった。
我、無理して若々しい服を着るババア大好き侍・・・。
全力で「うわキツ」って言ってあげたい・・・!




