第1104頁 またひがのぼる
煌びやかな朝日が差し込む神殿の通路に、金貨を指で弾きながら壁にもたれる人物が一人。
チャリン、チャリンとコインが鳴る音が通路に響く中、コイン遊びをしていた彼は突然動きを止めて、神殿の奥に視線を移した。
それからしばらくすると、奥からおどろおどろしい化け物のような声が聞こえてくる。
『帰ってきたのねロミネ、言ってくれればいいのに』
それは幼女、少年、青年、老婆など様々な人間の声が重なったような声でロミネを呼ぶと、彼は肩を落として息を吐いた。
「見ていたのですか、あなたも物好きですね。適当にロミネと名乗ったことを後悔しています、こうしてあなたに馬鹿にされるのですから」
『そんなに意地悪言わなくても良いじゃない……それでどうだったの、資金の調達は』
「そこそこです。満足のいく結果にはなりませんでしたが、まあ無いよりはマシですね」
そういうとロミネは懐から純金貨がどっさり入った小袋を取り出し、神殿の奥へ投げる。
『まあ、こんなにたくさん……ロミネ、あなたに色々言いたいことはありますが、一般常識的にこの数の金貨を「そこそこ」とは言わないわ』
「一般常識、ですか。あなたの口からその言葉が出てくるとは思いませんでした。では渡すものは渡しましたので、自分はこれで失礼します」
『……分かったわ、ありがとう』
ロミネは神殿の通路か足早に去ると、玄関からそこを出る。
「はあ……教団の収入だけだと目標まで何十年かかるのやら」
朝日が降り注ぐ盆地を、ロミネは山の上から見下ろしている。
「太陽が昇る……さて、月が満ちるのはいつになるかな」
ロミネは吐き捨てるようにそう言うと、黒龍の翼を背から生やして山から降りていくのであった。
・・・・・
「ああー、あいつが黒龍ってことで間違いなさそうだ。ひひっ、三日三晩張り込みしてた甲斐があったな」
魔力探知阻害、認識阻害、その他諸々の魔法を重ねがけし、更に土の中に潜っていたその女性は、ロミネが立ち去る光景をしっかりと目に焼きつけると、三日ぶりに外界へ出た。
「こら、離れろ虫……私は忙しいんだ。ありゃ、こんなに汚れて……こりゃ買い替えだなあ」
人間の九歳児ほどの体格しかないその女性は、のっそりと土の中から出てくると申し訳程度に服を叩いて泥を落とす。
小さな身体に世界一の頭脳、知見の螺旋という異名を持つ獣人族の村長アイリロは、アーク・ビレッジの隣国であるヴァイシュに単身でやってきていた。
王の紗友理と面識はあり、マカリナとのコネを使えば罪に問われることはないだろうが、公式の港を使わずの入国なので半分違法入国だ。
「厄災の兆しを感じる、少なくとも今からこの地で世界を大きく揺るがす何かが始まる」
過去についての知識が豊富なアイリロにとって、新しいものや未来の知識は知的探究心の塊だ。
特に厄災や龍に関しては厄龍戦争のこともあり敏感になっている。
アイリロは三日間で集めた情報を素早くメモに書き出すと、大きなあくびと共に腹の虫を鳴らした。
「ん、あー、そういえば最後に何か食べたのは二日前だったか。何も食べないのは脳に悪い、村にでも行って何か買うか」
念の為、防壁魔法と魔力探知阻害の魔法をかけてアイリロは山を降り、盆地の中に広がる半龍族の村へ向かうのであった。
お久しぶりですアイリロさん。
それとロミネが話していた謎の声の主にも注目です!




