第1101頁 ただいま、こきょう
マル姉の乗る船に乗せてもらってから数日。
龍について調べるアルトリア、ルリ、ティアは無事にヴァイシュ・ガーデンの海の村付近にある貿易港に到着した。
数日船に揺られていれば、暗い顔をしていたルリも気持ちの整理がついたらしく、いつもの無駄にうるさい彼に戻った。
「ひゃっふーい! 我が一番乗りなのだ!」
木造の桟橋に降り立ったルリは、久しぶりの故郷の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
「うぇ、磯の臭いしかしないのだ……」
「あはは、まあ海だからね。ありがとうマル姉さん、助かったよ」
微妙な顔をするルリを笑い、ティアは銃を担ぐマル姉に礼を言う。
「なに、妹を救ってくれた恩人の頼みならこれくらいお安いご用だ。私は周辺の村に寄りつつゆっくり王都に帰るから、君たちは先に帰って良いよ」
「本当にありがとう。じゃあ私たちは先に」
こうして三人はマル姉と別れ、人目の付かない岩礁の方まで歩いて行った。
「さてと、じゃあ事前に決めてた通りに」
「了解した!」
ルリはもう一度周囲に人がいないことを確認すると、白銀の鱗を持つ龍へと変化した。
それにアルトリアとティアは乗り、一行は竜車より数倍早い速度で王都よりもさらに北、雪原地帯へと向かうのであった。
・・・・・
王都を眼下に見つつさらに進み、空気が冷たく乾燥してきた頃。
突然アルトリアが声を上げた。
「ちょっと待って! 何か……」
彼女は無意識にピクピクと動く犬の耳を不審に思い、一度ルリを止めた。
「どうしたのアルトリア、何かあったの?」
「わからない、けどこの下……森の中に何かがある気がするんだ」
犬の獣人族であるアルトリアは嗅覚やその他の感覚が優れており、彼女の能力もあってか[情報を得る]という行為が他の人間と比べて優れている。
「森?」
『考えていても仕方がない、一度降りてみるのだ』
地上に降りた一行は周囲を見渡す必要もなく、一軒のボロボロの小屋を見つけた。
「ここって……!」
「あ、待ってよアルトリア! 倒壊するかもだから、中に入るのは……って聞いてないし」
一人で小屋の方へ走って行ってしまったアルトリア。
落胆するティアに、ルリは慰めるように言う。
「ちょうど疲れも溜まってきたし、今日はここで休もう。夜目は利くが、寒い中飛ぶのは危険だしな」
そう言われ、ティアは「ああー、それもそうだね」と森の中から空を見る。
「そのまま焚き火をするわけにもいかないから、我は洞窟とか風を凌げる場所がないか探してくるのだ。ティアは乾いた木とか燃料になりそうなものを探してくれ」
「了解、アルトリアはどうする?」
「あそこまで必死になるのも珍しい。この雪原地方はアルの故郷、彼女の過去に関することかもしれないし、今はそっとしておいてあげるのだ」
小屋に向かって走る中、アルトリアは確信していた。
この森の景色、誰かが戦闘の特訓に使ったような大木、そして玄関付近から吹き飛んだ小屋の瓦礫。
「間違いない、ここは……!」
瞬間、彼女の頭の中に忘れかけていた記憶が蘇る。
アルクベールの海岸にて、気を失った際に見た彼女の過去。
幼少期を過ごした思い出の小屋、カゾールの小屋であると確信した。
アルトリアの過去については730頁〜733頁をどうぞ!




