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第1100頁 かなたまでつづくすいへいせん


 ヴァイシュ・ガーデンから遠く離れた国、審美と絢爛の国フィンブル王国にて、一隻の船が出向の準備を進めていた。


「本当に大丈夫? 体調とか崩さないようにね?」


「もう、大丈夫だってフレデリカ。離れ離れになって不安なのはわかるけど、今の私は強いんだから! それはフレデリカが一番知ってるでしょ?」


 一度ヴァイシュに戻るアルトリアの手を握り、フレデリカは「そうだけど……」と下を向く。


「おーい、そろそろ出航するぞー」


 汽笛を鳴らす船から、フレデリカは名残惜しそうに降りる。


 今まで何度かアルトリアと別行動することはあったが、ここまで離れたことは無い。


 オマケに待っているのはオラシオン教団の半龍族ロミネ、罠かもしれない場所に親友が向かうのは不安なのだ。


「じゃあね、フレデリカ! またウォルロ・マリンで会おう!」


「うん、行ってらっしゃい! ルリさん、ティアさん、マル姉さん、よろしくお願いしますねー!」


 港から遠ざかっていく船を最後まで見送り、フレデリカは息を吐く。


 沖まで来たところでマル姉はあくびをしながら船の中に入っていった。


「眠れるときに寝てた方がいい、海は荒れやすいからな」


 どうしてマル姉が船に居るかを語るには、少し時を遡らなければいけない。


 そもそもマル姉は貿易船の護衛として、フィンブル王国にやって来た。


 それは帰りも同じで、船が戻る時はマル姉も一緒に戻る予定だった。


 帰りの準備を行うマル姉に、ティアは「一緒に乗せて帰って欲しい」と頼んだのである。


 その要望に船長も了承し、現在アルトリア、ティア、ルリの三人は静紅の元を離れ、ヴァイシュ・ガーデンに戻っているのだった。


「久しぶりに戻るなあ、みんな元気にしてるかな」


「呑気だな、怖くないのか?」


 そう言うルリの顔は暗く、不安感が伺える。


「母さんのことや[封龍]の力について何か分かるかもしれないからね。ルリは?」


「我は……ほら、師匠が……」


──────一件が終わったらヴァイシュに戻ってみると良い、宝は意外と始まりの地にあるものだから。


 ロミネはそう言って、彼女たちの前から去った。


 そのときルリは地面に倒れており、引き止めることが出来なかったのだ。


「そっか、ロミネってルリの魔法の師匠だもんね」


「黒龍ロミネ、我はあいつに完敗したのだ。でも今度こそ……」


「ルリは師匠に勝ちたいの?」


「……師匠との思い出はあまり良いものではない。それを払拭するためにも、我は彼に勝たねばならない」


「そっか、じゃあ各々の胸にってやつだね!」


「ああ、それぞれ目的を達成できるように頑張るのだ」


 アルトリアとルリが拳をぶつけ合う中、ティアは船のマスト上にある見張り台で海風を感じていた。


「この風はどこから来て、どこへ向かうのかな……」


──────君は知らなくちゃならない。半龍族の始まりと、龍の原点を。風龍ティアマトの血を継ぐものとして。


 ロミネの口から明かされたのは、ティアが風龍ティアマトの血を継ぐ存在だということ。


 確かに一般的な半龍族と違って、龍の姿に変身できる時点で強大な魔力を持っているのだが、身近な半龍族が大体龍の姿になれるので、気にもしなかった。


 風龍ティアマト。


 創世記時代、ティアマトはその魔力を使って世界に永久の風を齎した。


 それから何十年、何百年経っても、こうして風は吹いている。


「知りたい」


 彼女の中にあるのは、過去の歴史と自身の中に眠るティアマトの力に対する探究心だ。


 ティアは誰にも聞かれないように静かに呟くと、彼方まで続く水平線を眺めるのであった。


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