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第1098頁 ふたごのかたわれ


 凪咲の言っていた通り、双子の魔女が住む小屋は、誰も寄り付かないような秘境にあった。


 紗友里はルカにお茶を出してもらい、それを少しずつ飲んでいる。


「人間のお姉さんはどこから来たの?」


「王都だ。仕事に疲れたから、休むついでにここへ来た」


「ああ、そういえばさっき新しい王様だって言ってたね。ふうん……」


 ルカと名乗る双子の姉の少女は、茶を運ぶためのお盆で口元を隠しながら紗友里を見つめる。


「あ、あはは……」


 難しい話が分かる大人の相手なら得意だが、こういう無邪気な子供は好きでは無い。


 気まずくなって目を逸らすと、今度はもう片方の少女と目が合った。否、合ってしまった。


「ん……」


「な、なんだい……」


「ルナ、人間は信用していない」


 睨むような蔑むような視線に苦笑いしつつ、紗友里は警戒心が高すぎるルナという少女に問う。


「君たちだって人間じゃないか」


「…………」


 紗友里の問いに対して、ルナは静かに立ち上がり本気で憤った顔で。


「一緒にしないで」


 そう言うと、彼女は小屋を出ていってしまった。


「ごめんねー、ルナは人見知りなの……」


「これは……手強いね……」


 彼女の警戒心が強い以上、下手に近づくのは逆効果になってしまうだろう。


 だが別から見ればこれは好機、チャンスだ。


 警戒心の薄いルカと二人きりになれた今、彼女たちの情報を聞き出すことに専念すべきだ。


「君たちは魔法の扱いに長けていると知り合いから聞いた。そこでひとつお願いがある。その力を王都を守るために使ってくれないか?」


「いいよ」


「そこをなんとか──────は?」


「いいよって言ったの。大精霊が召喚されたあの一件を受けて、強力な防衛手段が必要そうだなあってルカも思ってたの」


─────承諾してくれた、んだよな?


 あまりの即答に動揺する紗友里。


 彼女はルカに、王都に来てくれた際の待遇と報酬を提案し、ルカはそれに同意する。


「なんかワクワクしてきたの。ほらっ、旅行は準備中が一番楽しい……みたいな?」


「あはは、君は凪咲とよく気が合いそうだ。凪咲も連れて来たら良かった」


「ナギサ?」


「私の古くからの友人だよ。私が王になってからは付き添い人として仕事を手伝ってもらっている」


「付き添い人……人間のお姉さんは王様なのに一人でここに来たんだね。もっと護衛の騎士とか、ボディガードとかつけた方が良いんじゃないの?」


「理由はそのうち分かる。それより人間のお姉さんと呼ぶのはやめよう、私には紗友理っていう名前があるんだ」


「わかったの、じゃあサユリ様って呼ぶの!」


 バッと立ち上がり紗友理の手を握るルカ。


 突然様付けされた紗友理は驚くが、とにかく名前で呼んでくれるならそれで良いか、と飲み込んだ。


「あとはルナを説得したい。ルカ、力を貸してくれるかい?」


「はいなの! ルナはえっと、ごうりてきってやつを大切にしてるから、ちゃんと理由がないと説得は難しいかもしれないの」


「それなら心配は要らないよ」


「へ……?」


「私も合理的ってやつが好きなんだ」


 紗友理とルカは支度をして、出て行ったルナを追いかけるため古屋を出るのであった。



・・・・・



 ルカとルナは共有意識的な何かで繋がっており、遠くにいても会話ができる。


 さすがは双子の魔女、想像できないようなことを当たり前のようにやる。


「ねえルナ、お姉ちゃんからのお願いだよ。顔を出して、ちゃんと話し合おう?」


 不貞腐れたルナをなんとかルカに呼び出してもらい、再び顔を合わせることに成功した。


「む……」


 ルナは木の上、さらに枝と枝が絡まり合う隙間から顔だけ覗かせている。


 まだ心の距離は遠そうだ。


「名前で呼んでも良いかな?」


「ん……構わない」


「じゃあルナ、君はこの森で何をしているんだい?」


 見た目は子供でも、相手は大人かそれ以上の知能を持っていると思った方が良い。


 さっきの古屋には本棚があり、そこには数術の本や交易の本、外交に関する本などが置いてあった。


 背表紙しか見ていないが、それらの本はボロボロになるまで読み古されていた。


 紗友理の問いにルナは少し迷った後、静かに答える。


「静かに暮らしている。それに理由なんてない」


「湖に時々姿を見せるというのは?」


「ルナたちは大体全ての属性の魔法を扱える………でも中でも水属性魔法が得意。清らかな水がある場所には、水属性魔分子が多く漂っている。そこへ行って、静かに過ごす。リフレッシュ、気分転換に近い」


「へえ、全ての属性を……すごいじゃないか」


「ふふん……あ、じゃない。すごくない、おだてても無駄。姉さんは懐いたみたいだけど、ルナはそう上手くいかない」


─────ちっ、もう少しだったんだが……。


 紗友理は視点を変えて、別の質問をする。


「どうして君は私を信用しない? どうすれば信用してくれる?」


「昔の人間は威厳があり、力があり、だからルナは尊敬していた。でも今の人間は違う。昔の人間が残した地位に居るだけ。昔の人間がすごいだけで、今の人間はすごくない」


「……つまり弱いくせに自分たちを従えようとするな、と?」


 紗友理の言葉にルナはうんと頷く。


「承知した。なら私と一戦交えよう」


「な、どうしてそうなる……?」


「君が従うべき存在だと強さを証明できれば良いのだろう? 自慢じゃないけれど、私は強いよ」


「……理にはかなっている。その提案、受けよう」


 ルナは木から降り、紗友理と距離をとってその小さな体で準備運動を始める。


「ふ、二人が戦うの……!?」


「姉さんは離れてて。ルナはルナだけの力でこの人間を、逆に従えてみせる」


「言うじゃないかルナ。では私が勝てば王都について来ると約束してもらおう」


「構わない……ッ!」


 ルナは周囲に水玉を召喚すると、それを高速で飛ばし紗友理へ向かわせる。


 紗友理は愛剣セパレートを被弾とほぼ同時に抜き放つと、ソレを簡単に弾いてしまった。


「あいにく、負けるつもりはないのでね」


「それはこっちも同じ……!」


 万優姫と双子魔女の片割れの決闘が、静かな森の中で今始まる……!



 ルナの言う昔の人間は、だいたい百年以上前の人間のことを指します。


 ちょうど厄龍戦争の時代ですね。


 ルカとルナが龍側に属していたのか、はたまた人間側に属していたのかは未だ不明ですが、当時もその溢れ出る魔力で戦場で暴れ回っていたに違いありませんね!

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