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第1087頁 エーテルwithメスガキ


「といっく、おら、とりーと?」


 王都のとある一軒家にて、青空のように美しい長髪を持った少女が必死に掛け声の練習をしていた。


「違う違う、トリックオアトリートよ。んん、エーテルにはまだ難しいかしら……」


 万優姫の紗友理が用意した客人用のこの一軒家には、エーテル三姉妹が住んでいる。


 来るハロウィンのため、エーテルはトリックオアトリートを練習するがなかなかうまく言えないようだ。


「あはは、ごめんねベルア、エーテルってば横文字に弱いみたい」


 ベルアとエーテルの特訓を遠くで椅子に座りながら見ていたアリスはそう言うが、すぐにエーテルが否定する。


「そ、そんなことないもん! わたしだってベルアお姉ちゃんみたいに言えるようになるもん……! とっとり、くあ、とり……あぅ、難しい……」


 しょんぼりとした顔で俯くエーテルに、ベルアはふんと鼻を鳴らす。


「トリックオアトリート、お菓子をくれなきゃイタズラするぞって意味ね。意味を考えながら言えば成功するかもしれないわ」


頑張って練習を行うエーテルを見ながら、アリスは嬉しそうに目を閉じる。


─────この国に引っ越してきた時、一番の不安はエーテルに友達ができるかどうかだった。でも今ではベルアっていう友達が出来て、色々な大人たちに見守られて、エーテルはすくすく育っている。


 当たり前のことをさせてあげられることが堪らなく嬉しいのだ。


 三年間も幽閉されていれば、他の同年代の子供と比べて成長も遅く、何より後遺症の影響で体が弱いエーテルに普通の生活は送れないと思われた。


 それが彼女の努力と周囲の協力もあり、少しずつだが普通の日常を送れるようになっていた。


「なんていうか、こう……口の動きを……」


「ありがとう、ベルア。教えようとしてくれる気持ちはすごく嬉しいけど、エーテルにはまだ難しいのかも」


「べ、別に教えてあげようだなんて思ってないわよ……ただ一緒に家を回る時、友達がちゃんと言えなかったら不格好でしょ。まあ良いか、無理に言わせるのも良くないわよね。じゃあエーテル、今度は予行演習として街を散歩するわよ!」


 そう言ってベルアはエーテルを連れてハロウィンの準備を行う街へと出て行ってしまう。


 一気に静かになった家の中で、アリスは一人微笑むのであった。



・・・・・



「ざあこ♡ たった十文字の単語すら言えない舌足らず♡ 巫女の恥♡」


「う、うう……うぅ……」


 ベルアが街の飾り付けを手伝う中、一人ベンチで座って待つエーテルに二人の幼女がにじり寄ってきた。


「んもー、そんなに言ったら可哀想だよベヒリアちゃん。いくら蒼穹の巫女様とはいえ、そこまで言ったら泣いちゃうよ。あははっ!」


「あはっ♡ まさか自分よりも年下の女の子に泣かされる巫女様なんて……あれえ♡ なんか泣いてる子がいる♡ ざぁこ、クソザコ涙腺♡ よわよわメンタル♡」


 大粒の涙を流して頬を真っ赤に染めるエーテルに、ベヒリアは更に追い討ちをかけようと次の煽りを考えるが……。


「これじゃあ蒼穹の巫女じゃなくて、号泣の巫女じゃん♡ ざっこ♡ くそざ……うにゅん!? い、いたいっ!」


「コラァ! あんたたち、エーテルを虐めるなァ!」


 高らかに笑うベヒーモスの二人の尻を、ベルアは思い切り引っぱたいた。


 バチ切れたベルアはそのまま継続して二人の尻を叩きながら、エーテルを慰める。


「大丈夫!? 何もされてない?」


「う、うん……大丈夫だよ……ベルアお姉ちゃん、この子たちは誰?」


 頬を赤らめながら叩かれ続ける二人を軽蔑の眼差しで見つつ、エーテルは問う。


「そ、そんなのも知らないなんて知識無さすぎ♡ 巫女ならそれくらい知っとけ♡ ざあ─────んにゃっ!?」


「こら、悪い子! エーテルは私の大切なと、ともだち……なんだから! 馬鹿にしたら許さないわよ!」


 数十発尻を叩かれピクピクと痙攣するベヒーモスの二人を他所に、エーテルとベルアはベンチに座って街の様子を眺めていた。


「ハロウィン……初めてだけどちゃんとできるかな」


「私だって初めてよ。というか、多分ほとんどの人が初めてじゃないかしら。だから自信持って!」


「えへへ、ありがとうベルアお姉ちゃん」


「むっ……そ、そうだエーテル、さっき手伝ったお礼にってコレを貰ったのよ」


 何かを思い出したように切り出したベルアだが、本当はどのタイミングで渡そうかずっと見計らっていた。


「ん……なあにこれ? 猫さんの耳みたい」


「そうそう、猫耳カチューシャよ。これを頭に付けてっと……」


 そう言って、ベルアは青色の猫耳カチューシャをエーテルの頭に付けてあげた。


「うん、可愛──────」


「にゃんにゃん、どうかなベルアお姉ちゃん、似合ってるにゃ?」


「ん゛ん゛!!!!」


──────何よこの可愛い小動物! ダメだ、可愛すぎて直視出来ない……!!


 あまりのエーテルの可愛さに悶えるベルアは、一息ついて自分の頭にもカチューシャを装着する。


「ほらベヒリア、モスカリア。あんたたちの分も貰ってきてあげたから付けときなさい」


「ねえベルアお姉ちゃん、街を散歩するって行ってたけど、何処に行くの?」


「んー、そうね……せっかくだから当日用の衣装も買いましょうか、カチューシャだけだと物足りないだろうし」


「ええっ、わるいよ……アリスお姉ちゃんから[他の人にたくさんお金を使わせるのはよくない]って教えられたよ?」


「じゃあアリスには絶対内緒にすること。私との約束よ」


 ベルアが差し出した小指に、エーテルはおそるおそる小指を絡める。


「服にも食にも興味が無いから、金は沢山あるのよね。だから払わせて欲しいのよ」


「分かった……ありがとう、ベルアお姉ちゃん」


 指切りを終えると、二人はそのまま服屋へ向かった。


 普段はファッション系のものしか売っていないが、期間限定でハロウィン仕様の服が売ってあると風の噂で聞いたのだ。


連続投稿877日目!!


静紅「今日のあとがきには、ベルアとエーテルを招待したよ!」


エーテル「わーい! がんばるよ!」


ベルア「改めてごめんなさいね、うちのベヒーモス二人がエーテルに酷いこと言って……」


エーテル「ううん、大丈夫だよ! 歳が近そうだったし、また今度会えたら仲良くしたいなあ」


静紅「もう何かエーテルって存在自体が尊いよね、なんでそんなに純粋なの……」


ベルア「バジィもベヒーモスも癖がありすぎるから、エーテルが天使みたいに思えるのよね。ずっとそのままでいてね……」


エーテル「……? よくわからないけど、私がすごいってことだよね?」


ベルア「そうよー、エーテルはすごいんだから」


静紅「そうだベルア、神託のみんなって普段何してるの?」


ベルア「普段? んー、バジィは人間の文化が大好きだから、よく資料館とか図書館に行ってるかしら。ベヒリアとモスカリアは私によく懐いてるから、研究の手伝いをしてくれているわ」


エーテル「ベルアお姉ちゃんは百年前の戦争について研究してるんだよね?」


ベルア「ええ、まだまだわからないことばかりだけど、私の王家が衰退した原因、旧王都が廃れた理由を絶対解き明かしてやるんだから!」


静紅「そういえばベルアって古の王家だったね。百年前のことか……その頃から生きている人はいないわけじゃないけど、やっぱり数は少ないよね」


エーテル「生きててもおばあちゃんになってそう」


ベルア「獣人族とかの長齢種族なら大丈夫そうだけど、そういう種族のほとんどは戦時に大きく数を減らしちゃったのよね。この前アーク・ビレッジに行った時にアイリロと話せばよかった……」


エーテル「私、そうきゅう……? の巫女っぽいこと何もできてないけど、ベルアお姉ちゃんに手伝えることがあったら何でも言ってね!」


ベルア「ありがとう、エーテルは優しいわね」


静紅「二人の絡みが尊すぎて会話に入る余地もない……!!」





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