第1083頁 マル姉の秘蔵書
世界樹の一件から数日、船の積荷の手配や仲間の疲れを癒すため、私たちは未だパフィのお世話になっていた。
裁縫が苦手な私なりに魔法人形ヘスティアの修復を行いながら、小さくため息をついた。
ここは王城の共有スペース。
ここでは談笑や茶会がよく行われている。
「あ、そうだマル姉、エーテルは元気にしてる?」
青空のような美しい長髪が特徴的な幼い女の子エーテル。
近代都市アドウェルの煙炉塔の地下にて幽閉されていたエーテルだったが、とある一件以降、エーテルの姉妹三人共ヴァイシュ・ガーデンで生活している。
エーテルは蒼穹の巫女とも呼ばれており、最近だと神託の巫女ベルアと仲良くしているらしいけど……。
「ああ、ヴァイシュの人は本当に優しい人ばかりだよ。エーテルを可愛がってくれる人も多い。アリスも変わらず元気にやってるよ」
「最近は何してるの?」
「アリスか? あの子なら騎士団が受け辛いような複雑な依頼を一人で受けてるよ。難なく解決してくるから、みんな驚いてる」
磁力を自在に操るアリスの身体能力は計り知れない。
強力な能力もさることながら、エーテルが幽閉されている時に積み重ねたトレーニングにより、彼女の戦力はこれ以上ないほどに研ぎ澄まされている。
下手な騎士よりは数倍強いはずだ。
「マル姉は……確か貿易船の護衛でこの国に来たんだっけ?」
「ああ! フィンブルまでの航路は魔物が多いからな。船を降りずに戦える遠距離型は重宝されるんだ」
「あ、確かにここに来るまで海の魔物がやけに多かったよ……」
私たちは比較的中遠距離で攻撃できる人が多いから、特に不便には感じなかったけれど。
でも通常は前衛数人と魔法使い一人がテンプレートだから、航海中の魔物との遭遇は魔法使いの負担を増やすことになる。
「そこで私のような超遠距離特化型が脚光を浴びるというわけだ。燦然と輝く太陽の元、海の波に乗るのは気持ちが良かったなあ」
「これからも旅を続けるの?」
「いいや、とりあえずまたヴァイシュの方に戻るよ。妹二人を置いて長女が旅をするわけにも行かないしな」
「ヴァイシュのみんなは元気にしてる? またルカとルナに会いたいよ……」
「もちろん元気だぞ、せっかくならこれ読むか?」
そう言いながら、マル姉はカバンから一冊のメモ帳を取り出した。
得意げな顔でそれを机の上に置き、ぱしんと叩く。
「私が数週間かけて書き上げた秘蔵の一冊……! ここにヴァイシュの皆の生活が記されている!」
「お、おおっ! ……でもなんで秘蔵?」
「ふふ、それは見てからのお楽しみ!」
マル姉は笑いながらそう言うと意気揚々、威風堂々とそのメモ帳の表紙を開いた。
連続投稿873日目!!
静紅「というわけで! 今回からハロウィン特別編としてヴァイシュ・ガーデンの物語をお送りするよ!」
紗友里「せっかくの特別編だから、この間は作者ではなく私たちがあとがきを担当させてもらうよ」
静紅「旅に出て以降、ヴァイシュの人たちとは中々話せないからね! こういう場があるのは私としても嬉しいよ……」
紗友里「それにしてもマル姉は本当に妹想いの良い子だね。彼女がいなければ今のアリスとエーテルはなかったと思うんだ」
静紅「分かる。本人は次女のアリスに任せっきりで申し訳ないとか言ってたけど、マル姉だって十分頑張ってるよね! 度を越えすぎた姫女子だけども……」
紗友里「姫?」
静紅「姫女子、百合好きな女の子だね。百合を目の前にしたマル姉は凄いんだから」
紗友里「百合……あまり漫画に精通していない故、そういうものに疎いのだが、私もルカとルナの絡みを見ていると……ふふ、心が癒されるよ」
静紅「それはメイドが好きなだけでしょ」
紗友里「バレたか……」




