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第1082頁 審美と優雅の王国

「号外号外、号外だよー!!」


 昨夜の宴の余韻が冷めない城下町にて、鳥獣人の少女が声を張り上げて新聞を配り回っていた。


「カルラさん、うちにも一部くれ!」


「何言ってんだ、俺のが先に並んでたろ!」


「うちには三部! 観賞用、保管用、布教用よ!」


「あっはは! そんなに焦らなくても大丈夫だよみんな、余りに余るくらい印刷してきたからさ!」


 世界樹を救い出すという前代未聞の偉業。


 その出来事はサンデーライト新聞社創設以来最大のスクープとして、朝早くから街中で号外が配られていたのだった。


 その号外には核が破壊されて倒壊する世界樹の写真、その裏にはパフィや静紅たちの盗撮らしき写真が掲載されていた。


「いやあ、それにしても世界樹様が転生かあ……そういう力があるっていうのは大樹派の布教で聞いたことがあったが、まさか本当にあるとは思わなかったな」


「あの異端派の宗教なんて信じる方が珍しいよ、ただの植物を神のように信じるなんて」


 そんな会話を繰り広げる街の住民たちの元へ、一人の高身長の男性が訪れた。


「しかし世界樹の現身であるユグドラシルが実在し、人間との会話が可能だとわかった今、真実が明るみになるのも時間の問題だ。何を信仰するかは自由だが、互いに認め合えるようにならないとな」


「「アルフレートさん!」」


 昨日の宴から王都に滞在しているアルフレートだが、意外にもその顔を知る人間は多い。


「先入観だけで物事を見ていれば、大きな損害を生みかねない。大切なのは事実と真実だ」


「そ、そりゃそうだし、アルフレートさんの言いたいことは分かるけどよ……」


 口を尖らせる村人の頭をポンと撫で、アルフレートは珍しく微笑む。


「まあ人に伝染した先入観は簡単には取り除けない。だからこそ、意識的に変えていく必要があるんだ」


「変えていく……?」


「守られるだけじゃない、世界樹と支え合っていくんだ。そのためには、まず彼らのことを知らないとな」



・・・・・



 シスターの朝は早い。


 昨夜の宴で酒は飲まず、宴があっても早く就寝する。


 昨晩のソロ活動で穢れた身体を、朝露が混じる聖水で洗い流し、長い髪を束ねて修道服を着る。


 彼女が身を洗い、その雫が朝日に照らされる様子はまさに絵画のように美しい。


「……ふう、昨日の今日でかなり疲労が溜まってるな。まさかただのイカレシスターが世界樹様を救う英雄になるなんてね……ふふ」


 自虐するように呟くが、その声に返答する者は居ない。


 世界樹が瘴気に汚染されてから、レヴィリオ以外の大樹派シスターは街を出て行ってしまった。


 結局、あれ以降一人も帰ってくることは無かった。


「ま、一度信仰対象を捨てたのに戻って来てもそれはそれでありえないけどさ……」


 口ではそう言っているものの、これからどうするべきか。


 前からレヴィリオを主体として活動してきたが、一人だと活動範囲も狭まってくる。


「そうだ、ユグドラシル様の受精卵……じゃない、世界樹様の種を植えないと」


 昨日の宴ですっかり忘れていた。


 彼女は部屋に置いていた長杖に括りつけてある小物入れを開き、手のひらサイズの果実を大切そうに運ぶ。


「場所は既に決まってる。教会の中庭しかないよ」


 流石に植え替える必要があるが、二週間程度ならこの中庭で十分だろう。


 レヴィリオはジョウロとスコップを用意すると、中庭の土に果実を植えた。


 すると種を植えたところが輝き出し、その輝きは周囲の植物にまで影響を及ぼした。


「……っ!」


 目に突き刺さるほどの閃光を放ちながら、植わった種はたくましい芽を生やした。


 芽はみるみるうちに成長し、枝が生え、枝は絡まりあって一本の小さな木と成った。


「世界樹様の祈り……叶えました、だから!」


 身を乗り出して木に近づき、レヴィリオは彼女なりの祈りを捧げる。


『ふふ、そんなに祈っても木はそれ以上成長しないわよ』


「その声は─────!」


 背後から聞こえてきた愛おしい幼女の声に、彼女は慌てて振り返る。


 そこには瞳を閉じて笑う、変わらないユグドラシルの姿があった。


「あ、ああ……!」


「おはようシスターさん、二人きりで会うのは本当に久しぶりね。十年前以来かしら?」


「覚えてくれていたのですか!?」


「もちろんよ。あなたが子供の頃、私は確かにあなたと言葉を交わした。母なる世界樹に知らないことはそんなに無いわ」


 そんなに無い、という言い回しにレヴィリオは微笑み、言葉を漏らす。


「本当に……あなたって人は……」


「よしよし、まだ泣くには早いわよ。これからが大事なのだから」


「これから……?」


 レヴィリオの頭を撫でながら、ユグドラシルは悠久に続く青空を見上げる。


「今回の転生で[私]は限りなく人に近い存在になった。これからは人間の社会で生きていかないと。だからレヴィリオ、私の隣で教えてくれないかしら? シスターではなく、私の[家族]として」


「……っ、はい! もちろんです……!」


 かくして周辺の国にまで騒動を広げた世界樹汚染事件は幕を閉じた。


 世界樹は[在るもの]としての認識が強く、大樹派のシスターがどれだけ活動をしても世間的にその認識が変わることは無かった。


 しかし今回の出来事とこれからの活動により、世界樹は[居るもの]という認識が広がりつつある。


 世界樹の祈りに頼りきりの体勢は不健全だと思った人々が、考えを改めつつあるのだ。


 活気溢れる審美と優雅の王国フィンブル。


 世界樹ユグドラシルがそれを見守る限り、その栄華が絶えることは無いだろう。


連続投稿872日目!!


 というわけで第22章 シスター・ヴィヴァーチェ完結です!


 パフィ関連の話が少し浅いと思いますので、またどこかで補足するとして……。


 約二ヶ月間続いた第22章も最後まで読んでいただきありがとうございました!


 次回以降の方針ですが、次回から数話かけて

[番外編 ヴァイシュ・ハロウィン編]をお送りいたします。


 またハロウィン編が終わったら

[第22.5章 ドラゴニアム・フォルティシモ]をお送りいたします!


 タイトルから分かる通り、龍関係のお話となっております!


 ルカやルナたちも交えて、龍の核に迫る物語にしようと思っていますので、お楽しみに!!

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