第1081頁 来る者拒まず
世界樹奪還の宴の翌日、私は今日も城の部屋で目を覚ました。
「おはようございます、お師匠様。朝食の準備は既に出来ているようですよ、顔を洗ったら食べに行きましょう」
「ん……ありがとフレデ……待ってなんで同じベッドで寝てるの」
「やだなあ、お師匠様が一緒に寝ようって言い出したんじゃありませんか」
「そうかな……そうかも」
昨晩の記憶を頑張って思い出しつつ、私は部屋の洗面所へ向かう。
次の目的地はウォルロ・マリン。
地図で見たが、この国からだとさほど遠くない距離だ。
問題はいつ出発するかだが……。
「アテナもヘスティアも一応治したけど自然治癒にはもう少し時間が必要そうだし、昨日の今日でみんな疲れてるだろうからな……」
「出発はまだ先送りになりそうですね」
・・・・・
城の食堂で朝食を摂っていると、ルリ、ティア、アルトリアの三人が声を掛けてきた。
何だか珍しい面子だが、すぐに龍関係のことだと察する。
「私たち、一度船を降りようと思って」
「わお、これまた唐突だね。まあ[来るもの拒まず去るもの追わず]止めはしないけど……」
「流石シズ、その考え方は偉大なのだ! まあ実は色々あってだな──────」
私は三人から、一度ヴァイシュ・ガーデンに戻って龍関係のことを整理したいことを聞いた。
悪党サルスから言われた[封龍の祠]や半龍族ロミネが言っていた[帰郷]について調査したいのだとか。
─────だからこそ君は知らなくちゃならない。半龍族の始まりと、龍の原点を。
ロミネはティアにそう言った。
仮にそれが罠だったとしても、半龍族の故郷フローダムなら確実に何かある。
隠された何かだとしても[風龍ティアマト]の力を開花させたティアなら何か見つけられるかもしれない。
「分かった。六花の発信機には全く別の場所が出てるし、教団じゃなくロミネの個人的な用事なんでしょ。とはいえ相手は強力、気を付けてね!」
「ありがとうシズク、戦力の要を二人も開けちゃって申し訳ないよ……」
「それ自分で言う!? まあ本当のことだから良いけど……でも今回はティアの旅の目的に直結することだし、なおさら止めないよ」
ティアの旅の目的。
厄龍戦争が起きた時、普段温厚で知的なはずの龍まで凶暴化し、人間たちを襲ったという記述が残っている。
そもそも超越的存在の龍が、人間の行動に一喜一憂するとは思えない。
[知見の螺旋]アイリロから瘴気が関わっていることは聞いているが、その詳細は未だわかっていない。
だからティアは旅の中で龍に関する痕跡を調査し、真実を明かしたい。
そうすれば半龍族に対する差別が減ると考えているのだ。
「感謝するぞシズ! やはり我の予言は間違っていなかったのだ!」
「予言?」
「シズについて行けば良いことがあるってやつだ!」
もちろん覚えていたが、面白そうだしもう少しからかってやろう。
「ルリがついてきて良かったこと……心当たり無いな」
「そんなひどい! ぼ、僕だって頑張ったのに……!」
久しぶりに見たな、素のルリ。
ぶわっと涙を流しながら慌てるルリをひとしきり笑うと、私は天井を見ながら一人思考する。
ルリ、ティア、アルトリアが抜けて時雨が入る……元々メンバーが少し多いと思っていたし、良かったかもしれない。
私たちの船ノア・シェルタは大き過ぎてまだまだ部屋を持て余しているが。
船のポリシーは[来るもの拒まず去るもの追わず]。三人が戻ってきたら快く迎え入れてあげよう。
・・・・・
「う、ぐっぷ……あー、気持ち悪いです……」
静紅が食堂で笑っている中、六花は二日酔いによる体調不良でエルメスの介抱を受けていた。
「リッカさん、どうして酒癖悪くて二日酔いしやすいのにお酒飲むの……?」
「娘に正論を言われてぐうの音も出ません……だって、だってぇ……」
「酒は飲んでも呑まれるな、過ぎたアルコールは身体に毒ですよ」
「はあい……」
コップ一杯の水を手渡し、エルメスはため息をついて窓の外を見る。
「空は今日も晴れてるね、やっぱり青空は気持ちも晴れ晴れして気持ちが良いよ」
主人エルメスのその言葉に、クラウソラスは賛同の意を込めて金属音を鳴らすのであった。
連続投稿871日目!!
さも当たり前かのように同じベッドで眠るフレデリカ……。
認識上では六花とフレデリカも静紅さんの恋人ですが、肉体的な関係だとフレデリカの方が上手かもしれません……!




