第1077頁 煌めく果実と大樹の種子
「六花、時雨!」
最後尾に二人並んでいた六花と時雨は、合図とともに同時に大技を放つ─────!
「フレイマギア・炎獄!」
「電磁砲!!」
ヘスティアのトライティナ・デストラクションを超える火力のエンジンを積んだその鉄塊は、助走ゼロの状況で発進し、世界樹の壁に迫る。
「このままじゃ速さが……」
「足りへんで! くっ……!」
このままではただ壁にぶつかるだけで、突破できない。
何とかしようと結芽子は大砲を取り出そうとするが、それよりも先にエルメスが飛び出した。
「お願い、私の声に答えて……レイギルモア!」
エルメスが現在所有している土の槍もフレイマギアと同じく、英雄が持っていた武器メロディアム・ウェポンだ。
エルメスに反発せず握れているということは、彼女と相性は良いのだろうが、今のところはっきりと力を引き出せてはいない。
「安寧の精霊ザヴァイスは、世界樹の加護を受けた槍って言ってた! この場所なら、あなたは輝ける……ッ!! だからお願い、届いて……!!」
刹那、もう一つの英雄武器フレイマギアと共鳴するように、レイギルモアは金色の輝きを放つ。
錬金術の国アルクベールの決戦時、土壇場でエルメスが放ったあの一撃のように。
バリッ! という音と共に世界樹の治療室に大穴が開く。
炎と電磁法の推進力に乗って私は空中へ飛び出すと、倒壊する世界樹を背後に拳を上げる。
「よっしゃあ! 帰るぞーーッ!!」
「「「おおーーーッ!」」」
エルメスが作り出した土の坂道に上手く着地し、私たちは無事地上へ帰還する。
そこでフレデリカたちとパフィたちとも合流し、私たちは全員揃って丘上の要塞へと帰還することにした。
世界樹を脱出に、帰還するまでの少しの間。
レヴィリオは複雑そうな顔で、壊れゆく世界樹を眺めている。
倒壊による風が彼女の髪を揺らし、憂いの感情を増幅させた。
「レヴィリオ」
「……うん、分かってる。私がやろうと言い出したことだから」
「実は治療室で、ユグドラシルと話したんだ。あの子は誰よりもレヴィリオに感謝してたよ。だから最期にあなたへこれを託した」
そう言って私はユグドラシルから受け取った煌めく果実を、レヴィリオに手渡した。
「これって……!」
「世界樹の種、ユグドラシルの受精卵」
「マジかッ!?!?!?」
忘れていたがレヴィリオは重度がつくロリコンだ。
家宝よりも大切にその果実を摘むと、崇めるようにそれを天に掲げた。
「……あっ空、晴れてる……」
「さあ皆様、帰ったら商人の方達も含めて大宴会ですわよ! ふっふっふ、昨日よりも派手に! そしてエレガントな宴会を開いて差し上げますわー! さあセバス、帰還しますわよ!」
目を瞑ってお嬢様言葉で歓声を上げると、パフィはセバスの背中を押して先頭を歩き出した。
「あはは、お待ちくださいお嬢様。セバスは戦闘の反動でしばらく動けませんぞ……」
そうだよパフィ、セバスさんも良い歳なんだから無理させないであげて……。
「なら私がおんぶして差し上げますわ。この完全姫の辞書に不可能という字はありませんわー!」
騒がしいパフィの会話を聞きながら、時雨はフレイマギアを思い耽るように抱き抱えていた。
「はあ、誰かに似てると思ったらサンデーライトの孫さんか。うう、私だけおばあちゃんになった気分……」
ため息をつく時雨の横に、私はしれっと並んだ。
「まあ実際百年生きてるわけだから、おばあちゃんではあると思うよ」
「ひ・ど・い! その百年間意識なかったんだけど!? 私まだピチピチの十代で居たいよ!」
「あっはは! なんか時雨ってもっと大人しい清楚系だと思ってたけど、元気な時雨も新鮮で可愛いね」
「んもう、静紅お姉ちゃんは簡単に可愛いとか言うんだから……でも本当に再会できて嬉しいよ。久しぶりに会ったのに、前と変わらず会話できてることにすごく驚いてるけど」
「それもそうだね。こう言うのって気まずくなるもの……なのかな?」
「積もる話はまた後にし──────」
「お師匠様あああああッ!!」
「ぐへらぁッ!?」
後ろから隕石の如き勢いで、フレデリカが抱きついてきた。
「お師匠様、さっきの約束絶対に忘れませんからね。忘れてないですよね? 忘れるはずがありません、私との約束をお師匠様が忘れられるはずがありません。そうですよね?」
「ねえ怖いって!!」
「ずるいですよこの淫乱エルフ! ボクだって静紅さんの身体を堪能したいのに!」
「ぐぅあああッ!」
どこからか六花が生えてきて、私の顎に頭突きをする。
それに続き、エルメスが左側から飛んできた。
「母さん母さん、私の活躍、見てくれた……? えへ、えへへ……かっこよかったでしょ、褒めて……」
「え、何この人たち……静紅お姉ちゃん、説明して……?」
背中にフレデリカ、正面から六花、右側には時雨、左側にはエルメス。
これが夢の百合ハーレムか、と感動する余裕もなく私は四人の圧に押されてもみくちゃにされる。
世界樹が瘴気に汚染されてから三日間、この国の人間たちの力を結集させ、世界樹を転生させるという強行手段で窮地を脱することに成功した。
四人に押し倒され、悲鳴をあげる私を見て笑うレヴィリオは、自らの手の中にある世界樹の種を見ると、優しさに包まれた顔で微笑むのであった。
連続投稿867日目!!
ユグドラシルの受精卵とかいうパワーワードについてはあえて触れないとして。
今回で最終編 世界樹奪還戦線編は完結となります!
以降数話ほど後日談が続きますが、重要な話題もありますのでそちらもぜひご覧いただければなと思います!




