第1075頁 結界
遂に本物の時雨と再会を果たした私は、ひとまず簡潔に状況を説明してフレイマギアが必要だということを伝えた。
「なるほど、結界の解除にフレイマギアが要るんだね。この結界はカルロッテが得意だったはず……あの人なら、解除用の台座は……」
時雨は百年間自分が寝ていた木の根の裏を覗き込むと、そこにちょうどフレイマギアが差し込めそうな穴があるのを見つける。
「ほらあった、ここに差し込めば解除されるはず」
「すごい時雨、よく分かったね」
私に褒められた時雨は「ふーん」とドヤ顔で胸を張る。
「だてに何年も一緒に旅してないからね。ただ長年の眠りの影響か、記憶に抜けているところがあるんだよね。眠りの後遺症は事前に説明されてたし、選んだのは私だから良いけどさ」
「やっぱり百年前のことはあまり覚えてないの? 仲間との思い出とか」
「正直、覚えているところが二割って感じかな。仲間たちには申し訳ないけど、まあきっと許してくれるよ。さて、一緒に差し込みたい人は?」
フレイマギアは主人の時雨がいないと言うことを聞いてくれないので、彼女は必須だ。
一人でも差し込めるのだろうが、ここは映えというか盛り上がりを大切にして時雨は一緒に差し込む人を募った。
そして、意外にも決まるのは早かった。
「静紅さんでしょう」
「逆に母さん以外が行くのも変だしね。頑張ってね……!」
「待って静紅お姉ちゃん、今母さんって呼ばれてたよね?」
「ンンン、複雑だから話はまた今度に! よし時雨、お義姉ちゃんとの共同作業だよ!」
私は時雨が持っていたフレイマギアにそっと触れると、ちょうどすっぽり入りそうな穴へ二人でグッと差し込んだ。
カチッと噛み合うような音がしたすぐ後、世界樹内にガラスが割れた音が響く。
数秒待っていると、私の脳内にやかましい声が聞こえてきた。
『お師匠様、割れました! 結界が割れました!』
「よし、あとは任せたよフレデリカ。帰ったら……ふふ、良いことしてあげる」
『ひやぁッ!? わっかりました、約束ですよお師匠様ァ!!』
「うっるさ……」
まあ一緒に風呂に入るくらいはしてあげても良いか。
それで力が出せるなら、何度でもしてあげる気持ちだ。
・・・・・
「す、凄まじい力……これがエルフの戦い方……!?」
大きく足を開き、大剣を構えるフレデリカの周囲にはビリビリとした稲妻が走り、彼女の足元の地面にヒビが入る。
「フレデリカさん、核を壊したら急いで逃げるよ! 世界樹が倒壊して生き埋めになる! ……ねえ、聞いてる?」
「お師匠様お師匠様お師匠様お師匠様お師匠様」
「あっ、ダメだ」
目をハートにして発情するフレデリカに、レヴィリオは完全に諦めた様子で逃げる準備を開始する。
「これが……お師匠様との愛の力だああああああ!!」
炎を纏う大剣が振り下ろされ、硬い殻に覆われた核が破壊される。
その瞬間、根元の大洞窟を含めた世界樹一帯が大きく揺れ始める。
「逃げるよ、フレデリカさん!」
「ふ、ふふ……これでお師匠様との濃厚で濃密な一夜が……どぅえへへ」
「笑い方が気持ち悪いっ! いいから走って! 生き埋めはいやだよ!」
・・・・・
世界樹の核が破壊されたことにより、世界樹内部も大きく揺れ始める。
そうか、核の破壊すなわち世界樹の死か。
ん? 待てよ、じゃあ……。
「もしかして世界樹、倒壊する?」
「「「いやあああああああ!!」」」
上下左右に非常に大きく揺れ、立つことすらままならない私たち。
なんとか壁つたいで立ち上がり、急いで通路を通って逃げようとするが、揺れに驚いた魔物がこちらに向かってくるのに気がついて急いで引き返す。
「くっ……」
望み薄だけど頼む、届いてくれ!
「ユグドラシル!」
私は部屋に響くような大声でその名を呼ぶ。
可愛らしい葉っぱのドレスを着た幼女だが、母なる大地のように私たちをいつも見守ってくれているママのような存在の名前を呼んだのだ。
連続投稿865日目!!
静紅から愛を受けたフレデリカの覚醒形態は、物理攻撃なら作中トップクラスの強さです。
まあそれは冗談として、世界樹ほどの偉大な存在の核をたった一撃で破壊するくらいにはバカな火力を持っています。
さて、核が破壊されたことで倒壊を始める世界樹ユグドラシル!
ほんとのほんとにクライマックスです!




