総集編 101頁〜200頁までの軌跡 その8
また一時間遅れの投稿(普通に忘れてました になりますが、毎日投稿はしてるので許してください。何でもしますから(何でもするとは言ってない
第10章[アングリフ・ボレロ]
旗槍と聖女編・中編
第193頁〜第197頁
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満天の青空、もくもくと浮かぶ白雲。
温かな日差しを浴びて、可愛らしい花の香りが鼻腔を刺激する。
私はゆっくりと目を開けると、信じられない景色が広がっていたのだった。
この場所には一度来たような気もするが、記憶には無い。
色とりどりの花が陽に向かって咲き乱れ、風に揺れている。
永遠とも思える花園は、地平線の向こうまで繋がっているのだろうか。
上手く思考は回らず、ただその場に存在することしか出来ない。
そして、誰かに話しかけられたことで思考は回復する。
「以前渡した[心の銅鏡]、今も持っているかしら」
「ああ……そういえば渡してくれたね。それがどうしたの?」
静紅は以前、クラ=スプリングへの道すがら夢の中でこの花園に来ていた。その際に静紅の今持っている[心の銅鏡]をペルソナリテから貰ったのだ。
「いざという時、それを使いなさいということだけ教えておくわ。きっと必要になるから」
「……ね、あなたも成れの果てなんだよね? もしあなたが成れの果てなら、私はあなたを人間に戻す努力をしてあげたいの」
彼女もホムンクルスと同じなら、彼女を人間に戻せるのではないか。
紗友里は成れの果ては危険だ、と言っていたがここまで良くしてくれているのに警戒する理由もない。
静紅のその言葉に、ペルソナリテは寂しそうに答えた。
「そう……。やめておいたほうが良いと思うわ。私達に関わると死ぬわよ」
「死ぬの? 私が? まさか、どうしてあなたと仲良くするだけで死なないといけないんだよ」
「……? あなたは私を警戒しないの? 成れの果てなのに?」
呆気を取られたような表情で、彼女は聞いてくる。
何を言っているか分からないが、グループ名や種族名で迫害するのだけは許せない主義だ。
別に彼女がわるいことをしたわけでもないし。
「成れの果ては警戒しないといけないの?それに、私とあなたはなんだか似ている気がするの。そんな人を放ってはおけないじゃない?」
「……この話題の答えは保留よ。これだから人間というものは……話題を変えましょう、そうね…。その心の銅鏡について話しましょうか」
彼女は立ち上がり、顔を背けた。遠くから風が吹いて、微かに桃色の髪が揺れる。彼女の言葉の後の数秒間、沈黙が続く。
しかし、質問に答えてくれないのなら仕方ない。答えたくない問だってあるはずだ。出来れば答えてほしいのだが。
静紅は大きく息を吐いて気持ちを切り替える。
「はあぁ、で? こんな前に渡してきたものが今役に立つの?」
「その通り。この心の銅鏡はただの銅鏡じゃないの、というよりあの世界では銅ってあんまり手に入らないんじゃない? 少なくともアーベントではね。そんなことは置いておいて、この銅鏡は唯一無二の聖具……ほら、ジャンヌの[旗槍]みたいに【特別な道具】なの」
あの世界、というワードに一瞬驚いたが、そもそも私を異世界へ送った人物なのだから二つの世界がある事を知っているのが当たり前だ。
それより、この銅鏡も聖具なのか。特別な道具か……。ただの丸い銅板にしか見えないんだけど。
「聖具って、魔法とは違う不思議な力を持った道具だよね。この銅鏡はどんな力を持っているの?」
聖具って確か代々受け継がれてきた伝家のナンタラって感じで、かなり昔から受け継いできた神聖な道具だって紗友里が前に言ってたような。
そのどれもが超能力が閉じ込められていて、悪用されたら結構まずいものなんだとか。
「その銅鏡は確か……なんだったかしら。そうだ、[対象と心を入れ替える]だった気がする。心の銅鏡っていうぐらいだし、そんなところでしょ」
「そ、それでいいの!?そんな適当に扱っていいの!?」
「あぁ、いいのいいの。どうせそれあと一回しか使えないんだから。使い捨て聖具と言ったところね」
「だからそんな適当でいいの!?」
「もう、ごちゃごちゃうるさい!とにかく、あなたはその心の銅鏡を使うときが必ず来るわ、宣言してあげる。入れ替わっていられるのはたった10分よ」
ペルソナは静紅にそれだけ説明すると、自慢気に腕を組んで椅子に座った。
「ついでになんだけど、ジャンヌの聖具の能力って?」
「あぁ、あれは[自身の体力を消耗して強い物理斬撃を生み出す]聖具ね」
静紅がそのスケールの大きな会話についていけず、ほえーと声を漏らしていると。
「もうこんな時間か。とりあえず、その時になったら聖具を使うのよ。いい?」
ペルソナリテは時計を眺めて焦りだした。
「その時……? う、うん。分かった……あれ、頭がボーっと……し、、て」
どさりと、静紅が地面に倒れこんだ音を聞いた後、静紅は深い眠りから覚めるのであった。
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「以上!質問がないようなので、これで会議は終了とさせてもらう!作戦名【アングリフ・ボレロ】……只今から決行だ!」
「とうとう始まるんだな……。気をつけろよ、シズ、スズ、ジャンヌ」
貴族邸へ忍び込む組を見送るルリは、いつになく不安そうだ。
全員の名前を言うと、彼は背を向けてグーサインを出す。静紅はそれに無言でうなづいて応えた。
静紅とスズメとジャンヌの三人はクリュエルのいる[貴族邸]へ歩き始めた。
カチャリカチャリとジャンヌの軽鎧の金属音が耳に届き、スズメの緊張する心臓の音までも聞こえてくる。
本来賑やかだろう街も、人っ子一人おらず、まるでゴーストタウンの雰囲気だ。
何かのチラシが風に舞い、道の端に着地する。
髪が乱れ、思わず頭を押さえるジャンヌの表情は、14歳の少女とは思えないほど凛々しく、そして勇み立っていたのである。
「緊張してない ?大丈夫 ?」
私がそう聞いてみると、ジャンヌはチラッとこちらをみて微笑む。
「はい、大丈夫です。私は聖女の血を継ぐ者……これも運命なんでしょう」
「ジャンヌ……」
彼女は胸当ての上から手を当てる。いっそう風邪は強くなり、旗槍の旗もパタパタと音を立てながら揺れてきた。
聖女の血を継ぐということは、ジャンヌのお母さんも聖女だったのだろう。祖母も祖祖母も。
代々受け継がれてきた旗槍のように、聖女の運命というのも尽きず尽かさず受け継がれるものなんだ。
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