第18-2頁 箱入り娘、イズミサユリ
数分間まっすぐ歩いていくと、巨大な石造りの屋敷のような建物に着いた。
「さぁ着いた、ここが私の屋敷だよ。入って入って!」
サユリさんが手を上げると、門番みたいな人が巨大な門を二人係で開けた。
様子を見ているだけでも、この屋敷のドアはとてつもなく重たいようだ。
「どうぞお通りください」
「そんなに改まらなくてもいいよ、いつも門番お疲れ様」
二人の門番に手を振って、サユリさんはどんどん屋敷の敷地内に入っていく。
「ここが会議室。ここで話し合いでもしよう」
なんか、すっごいワクワクしてるなこの人。
あれか? 箱入り娘的な感じで、お友達をお屋敷にお連れするのは初めてなのですわーー!」みたいなものなのかな。
サユリさんがドアを開けると、そこには会社の会議室を思わせるような机と椅子があった。
壁にはたくさんの本が並べられており、奥の壁は日光が入ってきやすいようにガラス張りになっている。
「し、失礼します……」
こういう所緊張するなぁ。社長室みたいな感じで。
あ、でも私たちの社長は蜜柑だから緊張しないわ。
心の中で蜜柑を見下したところで意識をサユリさんへ向ける。
「それじゃあ、ここに座って」
サユリさんに手で指されたのは二つ並んだ椅子だ。
「南南西にあるトレントの森から採ってきた木で作った椅子だよ。この森のおかげで、王都は木造建築物が多いだろう?」
また新しい場所と単語が出てきた。
私の脳にはもう少し頑張ってもらいたい。
「なるほど……それじゃあ1つ目の質問をさせてもらいますね」
六花が話を切り出した。
お互い、早く話し合いは終わらしたいからな。
すると、サユリさんは六花に手のひらを向けた。おそらくストップの意味なのだろう。
「ここは社会人として、交換条件といこうか」
サユリさんがいたずらに笑った。
「「交換条件?」」
私と六花がジャストタイミングで重なったのも気にせず、サユリは…
「そう、交換条件さ。私だけが情報を伝えるだけではこちら側が不利益だろう? 一つ教えたら一つ教えてもらう……ウィンウィンの関係だ」
にやりと笑うサユリさんは、小悪魔系女子のような面影があったのかもしれない。気のせいかもだけど。
「分かった。で、こっちはどんな情報を出せばいいの?」
異世界に来て1ヶ月ほど経つが、そんな交換に出せるような情報は持ち合わせてない。
「そうだなあ、君たちがこっちに来てからどんなことがあったのかを一つずつ教えてもらうことにしよう」
さすが王様。と言うべきか、こういう承諾話には慣れてるようだ。
確かにこれならお互いに不利益はなく、利益しかないからな。
「それではこちらから質問させてもらいます」
「分かったよ、六花はどんな質問をするんだい?」
1秒ほど悩んだ末、六花が出した答えは。
「とりあえず、あなたは誰なんですか?」
至ってシンプルな疑問だが、確かに今はこの情報が一番大切かもしれない。ナイス六花!
誰かもわからない人とあんまり踏み込んだ話をするのは危険だからな。
王様ってことは知ってるけど。
「それでは改めて……」
サユリさんは椅子から立ち上がり、
「私の名前は[イズミ・サユリ]。この国、ヴァイシュガーデンを治める王様だよ。君たちと同じ日本出身さ」
日本出身。
その言葉は、なんの違和感も疑問も驚きも感じない言葉だ……ここが元の世界なら。
この世界に[日本]という村や街が無いとは言いきれないが、あると言われてもなかなか信じることは難しい。
「日本出身……!?」
私は思わず声を漏らした。
だって、そんなことあるはずもないし。
「私は日本で女子高校生をしていた者だよ。今はもう24歳だがな。まあ何だ、この世界に突然飛ばされたもののなんだかんだで楽しくやらせてもらっているよ」
そう言ってサユリは紅茶の入ったコップをカチンと小皿の上に置くのであった。




