第14-3頁 君と別れる街道涙
農村のボア襲撃事件から数日。
最寄りの村に停泊しながらも、私たちはようやく[目的地]に到着した。
そこは王都ではなく、王都から一番近い村なのだが、私達にとってはそれだけでもかなり嬉しい。
竜車でも数日かかったのだから、徒歩なら何週間かかったのやら。
「ナーシャありがとう。ここまで乗せてくれて本当に助かったよ!」
「うん! えへへ、お姉ちゃん達と短い間だけど一緒に旅できて嬉しかったよ!」
私たちとナーシャはこの数日の間でかなり仲が良くなっていたが、ここからは私と六花だけで行動する。
ナーシャは竜車乗りであると共に、郵便配達の仕事も受け持っている。
仕事を蔑ろにはできないのだ。
「なーじゃざん! ごでがらもげんぎでいでぐばざい…うわぁぁん!!」
通訳すると、「ナーシャさん!これからも元気でいてください!」です。
短い間だったが、一緒に旅した仲間ということで、それなりに悲しい。
「ま、いつでも会えるよ! 多分」
「そ、そうですよね……うん!いつでも、いつでも……うわぁぁん!!」
六花の泣き虫は、昔から変わらない。
ま、可愛いからいいけど。
「ほらほら、もう泣かない!」
「うぐっ……うぅ、うぁ……」
あぁ〜、泣き顔も可愛い!
って言いたいところだけどここは村のど真ん中であって、通行人の人達に大注目中なんだよ!
村は村でも一応、南西道で一番王都から近い村なので、これはもう街と呼んでいい大きさと景観だ。
白石レンガが並べられた大通りの地面に座り込んで大泣きする六花は、未だに泣きやもうとしない。
「お姉ちゃん、私もう次の仕事があるから、これで失礼するね!」
「あ、引き止めちゃってごめんね! お元気で!」
「いえいえ! お姉ちゃん達に精霊の導きがあらんことを!」
そう言うとナーシャは、大急ぎで大きめの建物へと走っていった。
「ばいばーーい!」
「ばい……ばい……」
こうして、竜車乗りの少女、ナーシャ・サンタローブと私たちは別れた。
長くはないが短くもない素敵な旅をさせてくれた彼女には感謝しかない。
「さて! いつまでもクヨクヨしないの! 心機一転頑張ろう!」
「…はいっ! ボクお腹すきました! さっきから向こうの方から美味しそうな匂いがしてるんですよ!」
「はいはい、森から持ってきたお金で買えたらね!」
そう言って人混みの中へ私たちは入っていった。
それは、伝説の剣を探すのではなく、美女を怪物から救うわけでもなく、ただの食べ物を探すだけだけど、とてもワクワクしている。
だってショッピングなんて久しぶりだもん!
「ふぅー、買ったし食べたね!」
意外とこの世界の物価は安く、沢山ものを買えた。
手頃な食糧や、暇潰しに読めるような本も買っておいた。
「さ、行きますよ! 静紅さん!!」
「えぇ? まだ何か買うの?」
もうお金も少なくなってきたし、買い物は止めようよ、と言おうと思った時。
「違いますよ! [王都へ出発]するんです。話によると徒歩でも1時間ぐらいで到着するようですよ!」
大晦日の夜に、社畜の私はトラックに引かれて異世界に転移した。
転移してすぐにキノコタン戦争に巻き込まれたが、平和条約を見事結んだ。
それから王様に呼ばれて国道を進む間にもナーシャと出会い、たくさんのことがあった。
どれもこれも大変だったが、たったひとつだけ確かなことがある。
それは、社畜時代の私より、今の私の方が何十倍も『生き生きと笑えて生活できている』ということ。
これからも大変なことがあるかもしれないけど大丈夫!
最後には必ず笑えるはずだから。
農村であんなことがあったり、大ムカデに襲われたりしたけど、今は元気に笑っているんだ!
さてさて、第3章王都編……ついに開幕です!!!