第12頁 村を襲うボアの群れ
『ふがっ!』
現在、停竜場付近で遭遇したボアを討伐し、民家に居るボアと戦闘中。
停竜場に居た一匹目は、ナーシャの火球を使って倒すことが出来た。
そこから流れ作業のように農村に侵入したであろうボアを討伐することに。
今、目の前にいるのは二体のボア。
前足をずりずりっと動かして、今すぐにでも突撃してきそうな様子だ。
例えるなら、闘牛のような。
「うっ……危なっかしくて近づけません!」
遠距離攻撃の手段を持ち合わせていない六花は、遠くで見ていることしか出来ない。
「ここは私が出るよ、ちょっと不安定だけど当たるはず!」
そう言って私は、キノコタンの森から持ってきたキノコタン・ナイフをくるくると空中で振り回す。
『ふごっ!?』
手応えで言えば、キノコタンの森で以前出没したハームウルフと同等レベルだ。
意外とスパッと切れるので肉が柔らかいのだろう。
とは言え魔物の肉には少し抵抗があるが。
攻撃さえ当たらなければ、難なく討伐は可能だ。
それでも相手の行動パターンは未知数なので、警戒を怠ってはいけない。
いかにも物を斬ったような斬裂音をたてながらキノコタン・ナイフを引き戻した。
『ふがーー!!!』
こんな魔物でも理性はあるようで、仲間が目の前で殺られて気がたっているようだ。
「また来た! 一体どれだけの数が村に入ってきてんの!」
再びキノコタン・ナイフを浮かせて、ボアを目掛けて右上がりに弧を描くように飛ばす!
『ぐひん!!』
ボアの広めの額に、キノコタン自慢の刃が突き刺さり…そのイノシシは静かに地面に倒れた。
これで3体目!どんどん行こう。
・・・・・
「はぁー!!」
ナーシャの手のひらから放たれた火球は、真っ直ぐ飛んでステップ・ボアに命中する。
この魔法の原理は[空気中にある魔分子を身体を通して火に変える]というものだ。
火魔分子をほんの小さな火球に変えるだけでも物凄い体力がいるので、そう何発も撃てたものでは無い。
なので、弱点部位に当てて出来るだけ節約していきたい。
世界には、少しの火魔分子で天まで伸びるほどの[火柱]を出現させることが出来る魔法使いもいるらしいが、そんな人に比べたらナーシャの火球は比にならないほど弱々しい。
『ふんがーーー!』
「それでも私はみんなを守りたいから!」
鳴き声が聞こえたらその現場にすぐに行って、容赦なくボアに火球を撃ち込む。
そんなことを続けていくと。
ボアの数は明らかに減ったのだが、まだ生き残りが農村にいるようだ。
それにしても、どうしてこんな村を襲うんだろ。何の得もないはずなのに……。ボアは肉食のはずだし、野菜目的?
そんなことを考えながらナーシャは、農村の一番奥にある小山のような所に向かった。
さっきボアを倒した地点から何も異変はなかったので、気づかずにスルーしてしまった可能性はゼロに等しい。
そもそも、この農村は複雑な構造になっており、ナーシャも初めて来た時は何度も迷いそうになった。
『ふがーー!!!』
息が上がらないギリギリの速さで歩いていると、突然目の前の草むらからボアが飛び出してきた。
ナーシャは足を止めて辺りを見渡す。
「くそ……道を開けて……って」
『ふごっ!』『ふがー!』『ふがーー!!!』『ふんが!』『ふんがーーー!』
「な、何匹いるの!?」
まずい。
ナーシャはいつの間にか6匹のボアに囲まれていた。
村の一番奥の小山は、頂上が平らで狭い。
そこにナーシャはまんまとおびき寄せられてしまったということだ。
どんどん近づいてくるボア達。
引き下がろうとしても、後ろにもボアがいる。
絶体絶命の状況で、額からは汗が吹き出てきた。
『ふがーー!!!』
一匹の鳴き声の後、六匹全てのボアがナーシャに向かって突撃をしてきた。
「もう!! ならあの技を使うしか……! 火属性魔法・炎弧!」
そう唱えた途端、ナーシャの手のひらが溶けるように熱くなり、そこから薄っぺらな炎の刃が出現した。形だけで言えばブーメランのような感じだ。
「熱い……でも成功した!! 喰らえー!」
炎弧はぐるっとナーシャを中心として円を描くように動き、周囲360度を真っ赤な火が約0.5秒という速度で駆け抜けた!
『ふがっ…!?』
ボアのその頑丈な身体は、高熱の薄い板で真っ二つにされた。一匹も残らずに。
「はぁ、はぁ……。もう戦えそうにない……や……」
[炎弧]は、ナーシャの中ではかなり難しい魔法のひとつで、その分体力をたくさん消費してしまう。しかし、威力が高いので、諸刃の剣と言うべきか。
ナーシャは少し焦げた左腕をもう片方の腕で抑えながら、小山を降りていった。
ゆっくり、ゆっくりと足を引きずりながら。
・・・・・
私がナーシャと別れてから30分ほど時間が経った。
あれからも順調にボア達を倒したが、まだどこかに残っているかもしれないので、とりあえず農村を巡回するしかない。
予想以上の長期戦で、息が上がった私に、六花はなにかに気づいたように言った。
「静紅さん、ちょっと待ってください」
「ん? まだボアがいるの?」
「反応はボアに似ているのですが……他のものより強力な反応なんです」
彼女の能力、環境観察術は近くの魔物の位置や反応までもわかる優れものだ。
六花の言葉通りなら、その強力な反応が今回の襲撃のボスだろう。
「いこう、ボスさえ殺せば雑魚は逃げるかも!」
私は彼女に案内されながら、そのボスの方へ向かうのであった。
こんちゃー!月見里 蜜柑だ!
今回も俺の出番がなかったな〜、ま、その分ほかのことが出来るからいいけどよ。
さて、今回はどうだった? ナーシャ視点の部分が多かったな!
いいなぁ、俺も魔法使いてぇ!!
きっと俺だったらどんな属性だって似合うぜ!
轟々と燃える炎を使う火属性魔法!
凛とした爽やかな水を使う水属性魔法!
痺れるような電気を操る雷属性魔法!
聖なる光で敵を浄化する聖属性魔法!
夜のような闇で痛めつける闇属性魔法!
いやぁ、想像するだけでもワクワクするぜ!
おっと、、つい自分の世界に入ってしまったな。
んじゃ締めるか!
次回!
六花の右眼に異変が……!?
禁断の邪眼かよ!




