第10-2 竜車乗りの少女
それから私達は本当に他愛もない会話をして、竜車に揺られながら王都近辺の街を目指した。
空が紺色に染まってきた頃、竜車が減速していることを感じた私は荷台の入口から外を見る。
そこには、明かりのついた小さな村があった。
畑が多いので、おそらく農村的な場所だ。
運転席から降りた竜車乗りの少女が荷台の窓から覗き込んで私たちに言った。
「お姉ちゃん! 今日はこの村でお泊まりだよー、竜達も疲れちゃったみたいだしね」
というわけで竜車から降りて、宿屋を探すことになるのであった。
・・・・・
夜が近づいてきて暗かったが、街灯替わりの松明が道しるべとなって、村の道を歩くことが出来た。
「畑、畑、畑。あっちもこっちも畑だねえ。田舎のおばあちゃん家を思い出すよ」
辺りを見ながら私は呆れたように呟いた。
松明の灯りが届かないところは深い闇が広がるこの村は、お世辞にも栄えているとは言えない。
「こんな所に宿屋があるんですか?」
不安になった六花が少女に尋ねる。
「うん! この村はいつも使ってるから、どこに何があるかは全部分かるよ!」
胸を張って少女が言った。
いつも利用しているなら少女について行っても大丈夫だろう。
ちなみに、竜車は村の入口に停めている。
この村の名前はキトナ。居住地:畑とすると3:7の比になるほど、村の土地の大部分が畑に利用されている。
分厚い木のドアを慣れた手つきで少女はノックし、ゆっくりと開いた。
ドアに取り付けられた鈴が私たちの入店を知らせ、カウンターの奥から元気のいいおじさんが出てきた。
「いらっしゃい! 今日はどこに配達してたんだい?」
元気な声が宿屋内に響く。言葉の内容の通り、少女は本当に毎回この宿を利用しているようだ。
「今回はキノコタンの森へ配達に行ったよ! それでね…」
少女は私たちの方に手のひらを出して、宿屋のカウンター係の男性に私たちの存在を示す。
「おや、べっぴんさん。今日はこの子達も泊まるのかい?」
少女はニコッと笑ってうなづいた。
私が、べっぴんさんと言われて喜んでいないと言うと嘘になるが、ここはぐっと堪えた。
履き慣らしたブーツのかかとをこんこんと床にたたきつける。
「そうかそうか! それじゃ、一泊銀貨5枚だよ」
そう言われて、私達は銀貨が入った袋から丁度5枚を男性の手の上に出した。
合計15枚の銅貨を手に入れた男性は案の定ご満悦だ。
「それじゃ、ゆっくりしていけよー」
少女に手を引かれながら、カウンター横にある階段を上り、一番奥の部屋に入った。この部屋がいつも使っている部屋らしい。
海外の寝室をそのまま切り取ったような、ボロすぎず豪華すぎずのちょうど良い雰囲気の部屋だ。
「この部屋は私が使うね! お姉ちゃん達はどこか他の部屋に泊まったら良いと思うよ! この部屋三人じゃ狭いし、三部屋分の代金を払ってるんだから」
確かに部屋の代金ではなく人数で払ったんだ。
せっかくなら全員別の部屋に泊まっても良いかもしれない。
それに出会ってすぐに同じ部屋に眠るのは少し気が引ける。
「分かった、色々ありがとうね。えっと……名前何で言うんだっけ?」
「あっ! そういえばまだ自己紹介してなかったね、あはは。数時間一緒にいたのにね」
少女は竜車協会の印が入った手帳から名刺を取り出すと、私に差し出した。
「あぁ、えーっと……竜車に乗って配達屋をしてる[ナーシャ・サンタローブ]って言います! 一応、火球ほどの魔法なら使えるよ、竜車乗りは自分で身を守る! お父さんにそう教わったからね!」
窓から差し込んだ月光が、彼女の金の髪の上で弾けた。




