総集編 101頁〜200頁までの軌跡 その6
第10章[アングリフ・ボレロ]
中央図書館占拠作戦編・後編
第179頁〜第189頁
静紅一行は襲撃を受けたことにより、多大な被害を生んでいた。
教会の外壁の崩壊、主力のジャンヌの意識不明の重体、そして魔力切れによるルリの一日休養。
翌日の予定だった中央図書館占拠作戦の決行も危ぶまれたか、静紅とスズメは紗友里に頭を下げてルリを含めた三人で作戦を決行させてくれ、と頼んだ。
ジャンヌの身になればわかる事だ。自分が気絶していたせいで予定が狂ってしまうのは、ジャンヌが一番辛いことだろう。
「……そこまで言うなら……。でも私の方も最大限サポートはさせてもらうよ。ルナも支援魔法を使えるぐらいは魔力を溜めておくように」
紗友里は折れて、ジャンヌを抜いてルリを入れた三人で作戦を決行することにした。
そうは言ったものの、静紅は不安だった。自分がしっかりこなせるだろうか、と危惧してばかりだ。
「今更何よ、やるって決めたならやる…それがあんたでしょ?大丈夫、必ず上手くいくわ。なんせ、わたしがいるんだもの!」
スズメのその言葉に、静紅も自然と笑顔になるのであった。
・・・・・
その日の夜、ルリは静紅に自分の故郷のことを話した。
[ティア]という少女が居て、ルリの出身村で一緒に生活していたらしい。
作戦決行は早朝のため、すぐ就寝して翌日に備えることにした。
中央図書館へ日が昇るより前に到着しないといけないのだ。あまりもたもたはして居られない。
強気でルリと仲の悪い少女スズメ。
強気でスズメと仲の悪い少年ルリ。
そして成人済みの静紅。
この三人で作戦を行う。正直、不安要素しかないのだが。
早朝、紗友里とルナに背中を押されて教会を出発した。
「おいシズ、どうしてコイツと一緒に行かないといけないのだ」
「あらあら、誰がコイツだって? しっかり[固有名詞]で呼んで欲しいものね。あっ、あんたバカだから固有名詞って知らないか!」
「んだとこのー!」
「すぐ怒る、低脳の証拠ね」
「あああああ!?」
それから、ガヤガヤと両隣で喧嘩をしながら進んで行った静紅達。
スズメの案内で、この街最大の書物庫[中央図書館]に辿り着いた。
道中、数人の兵隊が列をなして徘徊を行っていたが、余計な戦闘は避けたいので、身を隠しながら細心の注意を払ってここまで来た。
中央図書館の広さは50ヘクタールほど。
豪華なシャンデリアが天井から垂れ、ホコリの被った本棚がずらりと並んでいる。
図書館の奥には地下への通路があり、そこを降りていくと地下水路だ。
ここを守備していた兵隊を蹴散らし、ロープで縛る。
「さーて、思ったより簡単に済んだね。一応地下も見とこうか」
そう言って、三人は地下水路の様子を確認するため地下への階段に足をかけた。
地下水路は、苔の生えた石レンガが壁一面に敷き詰められている感じで、右側は歩行用の道。真ん中が地下水路。左側は同じく歩行用の道になっている。
「ねえ、ここに何か書いてあるわよ。案内板ね」
そこには水路の道順や街中の施設の名前などが書いてあった。
ジャンヌが言っていた[地下水路さえ占拠すれば街中に移動できる]ということは本当らしい。
そしてそこに書かれてあった一つの単語が静紅を戦慄させた。
────────処刑台。
「捕まって連れていかれた人、わたし何人も見てきた……まさか……っ! そ、そんな……」
取り乱すスズメを静紅は急いでなだめる。
───────どうしてこの国はこんなにも残酷なんだ。
・・・・・
中央図書館に教会からの荷物を運び終えた一行は、今後のことを話し合うため会議をした。
「ジャンヌ、目を覚ましたんだね!」
「ええ、我ながら体の頑丈さに驚きました」
第一の話題は[人造人間]についてだった。
「あんなやつ我の魔法で一掃してやったのだ!」
「私の攻撃はあまり効かなかった。明らかに普通の魔物ではないな」
相対するルリと紗友里の言葉に一同は頭を悩ませた。
どうやら[魔法は効くが、物理攻撃は効かない]らしい。
ならば魔法が得意なルナも支援魔法よりも、攻撃魔法に専念してもらった方がいい。
「お願いしてもいいかいルナ?」
「…………ルナは、みんなの力には……」
悔しさからなのか、ルナは拳を握って膝の上に置いた。
唇を噛み締め、いつもの彼女からは想像できないような様子で今回の失態を伝える。
「あの時、ルナは誰の力にもなれなかった。ホムンクルスの駆除はおろか、サユリ様の足でまといになってしまった……。ルナの能力は[姉さんに触れている間のみ魔力が向上する]というもの。姉さんが居ないということは、今のルナは誰の力にも……!」
「そんなことないよ」
「そんなことある! ルナは王国最強の魔法使い、だと思っていた……。でも、それは違った。ルナと姉さんで、2人でひとつの魔法使いだった……。自分の力を過信し、自惚れ、そしてこの失敗。あぁ、姉さんが凄かっただけだったんだなって、薄れていく意識の中強く思った……。ルナは……もう、最強じゃ……」
そう言ってルナは椅子から立ち上がり、図書館の隅へ走っていってしまう。
「ちょっとルナ!」
「ついてこないで……! 少し、一人にさせて」
──────ねぇルナ、あなたは誰の力にもなれなかったって言ってたけど、そうじゃないと思うんだ。
きっと誰かがあなたに助けられているよ。誰も助けていない人なんて、この世に存在しないのだから。
「ルナ……」
ここにいる誰よりもルナと共に生活した紗友里が、静かにそう呟いた。
「……作戦会議を続けよう」
紗友里はホムンクルスについて手帳に書き記していく。
【ホムンクルス】
クリュエルの能力───禁忌術と呼ばれる、世界で決められた[使っては行けない魔法]を使用して生み出される怪物。
木の大きさほどの身長に薄橙の肌。全体的に筋肉質で、移動速度、パワー共に魔物の中でトップクラスを誇る。身体のどこかから黒い杭が飛び出したようになっていて、顔は顎の出た巨人のよう。
物理攻撃は筋肉のせいでほとんどダメージが入らず、魔法攻撃が有効打だと思われる。
彼らは額が弱点で、そこを狙えば物理攻撃でも何とか仕留めることができるらしい。
破壊の限りを尽くし、クリュエルの指示には従う。人の言葉は話さず、魔物のような唸り声を上げる。
「分かっているのはこれくらいか……」
半龍族のルリは[禁忌術の気配]が分かる。
過去にルリは目の前で禁忌術を使われ、その気配を今でも覚えていた。
「禁忌術って何? そんな魔法知らないけど」
「うむ、国連で決められた[使用しては行けない魔法]だ。普通の魔法は、魔分子や魔力を使うけど、禁忌術は生き物の生命力を使用する」
ここは巨大な図書館だ。情報はこの国のどこよりも多い。
禁忌術についての本を探すため、会議は一度解散した。
静紅は禁忌術の本と共に知りたいことは知っておこうと沢山本を持ってきた。
禁忌術についての本を開き、皆で読んでいく。
【禁忌術きんきじゅつ】
その名の通り、使用することを禁止されている魔法。
通常の魔法は魔分子を使用して発動するが、『代償として生物の生命力』を使用する。
その量は術によって差がある。
血液一滴の術もあれば、生命5つの術もある。
【人造人間創造】
使い主に従順な生物兵器、人造人間を創造する術。正確に言えば、人間を生物兵器へと変貌させる術。
・代償は成人一人の生命、または子供二人の生命。
・一度の創造の限度は10体で、代償は1体ずつ適応され─────
「ま、待つのだ! この本に書いていることが本当なら……ホムンクルスたちは……」
「今まで、たくさんの仲間や仲間の家族が連れていかれました。そして、その姿を見た人は誰一人居ません! もし、禁忌術の代償として連れていかれた人の生命が使われているなら……あの方達はもう既に……」
その事実に一同は震撼した。
殺したホムンクルスは、元々人間だったのだ。各々自分の意見を言う中、ジャンヌが立ち上がって声を上げた。
「私は……! 助けられる命を助けたい。死んでいった仲間のためにも、ホムンクルスを人に戻す努力をしたいです」
人をホムンクルスに変貌させる禁忌術があるなら、ホムンクルスを人に戻す禁忌術もあるはずだ。
「あった、これなのだ!」
【対人間術解除】
全ての禁忌術で変化した人間を元に戻す禁忌術。
・代償は聖女が聖具[星の耳飾り]を使用する、聖女の生命。
・使用すると、一定距離範囲内の禁忌術を解除することが出来る。
「わ、私……!?」
なんと人に戻すには聖女……つまりジャンヌの命が必要だった。
彼女の年齢も身体も純粋な14歳。決して経験豊富なロリババアではない。
そんな未熟な少女が、こんな決断をしないといけないとは。
やっぱりこの国は残酷だ。
あの後、どうにか他の方法でホムンクルスを人に戻すことは出来ないか調べたが、やはりあの方法しか見つからなかった。
自分の命と引き換えに、誰かの命を守るのか。それとも、誰かを見殺しにしてまで自分が生きるのか。
────誰かを見殺しにして得た命は、全身で生を感じられるのだろうか。
その夜、静紅はジャンヌのことを思いながら中央図書館の[図書館部分]へ来ていた。
中央図書館はただの図書館だけでは無かった。
緊急用の食料物資も豊富で、泊まり込みで勤めていた職員もいたのか、寮っぽいものもあった。
静紅たちはこれを利用して、寮で寝泊まり、図書館部分で生活をすることに決めた。
「紗友里、こんな遅くまで何してるの」
「ああいや、ジャンヌの命を使わずともホムンクルスを人に戻す方法は無いか探してるんだ」
「手伝うよ、私だってジャンヌを救いたい気持ちは同じだし」
それから静紅は、紗友里に取ってきて欲しい本を取りに行った。
「えっと、な行な行……あった。これだ……ん? なにこれ」
目的の本の隣に、静紅の興味がそそられる内容の本があった。
[成れの果て]というタイトルの本を開き、目を落とす。
【禁断の聖紫滴】
それを飲むと成れの果てという存在になれると言われている液体。
神話では、2人の女性がこれを飲んだことで天界を追放された。
静紅はこの紫の液体に見覚えがあった。正確に言えば、聞き覚えであるが。
盗賊団基地破壊作戦の時、リュカはこの液体を飲んで炎の化け物になった。
マーメイド・ラプソディーの時、人間だったイナベラはこの紫の液体を飲んで人魚になってしまった。
人魚が成れの果てというのは既に確認済みだ。
【成れの果て】
世界の調整を行い、魔法・能力の創造をして、魔物を生み出す、とても不思議かつ不可解な存在。
禁断の聖紫滴で成れの果てになることが出来るが、作用後の状態には個人差がある。
意識をなくし、暴走するただの兵器になることもあれば、人間以上の知能を持ち、この世界の神になれる力を得る時もある。
世界の中心的存在。
そうか、だからリュカは自我を持たない炎の化け物になり、イナベラは人智を超えた怪力を持つ人魚になったんだ。
「紗友里、ホムンクルスって何の生物に分類されるのかな?」
「ルナがホムンクルスのことを成れの果てと呼んでいたような……それがどうした?」
成れの果てというものはああも量産できるものなのだろうか。ペルソナリテのように、唯一無二の存在だと思っていた。
しかしこの世界に常識は通用しない。
ホムンクルス=成れの果てと仮定して、成れの果てを人間に戻す方法はないだろうか。
成れの果てを人間に戻すということは、ホムンクルスを人間に戻すことと同意だ。
そして唯一の希望を見つける。
【成れの果てを人に戻すには】
成れの果てには核という物が存在する。
その核を完全に破壊し、人間の記憶を取り戻すことで成れの果てを人に戻すことが出来ると確認されている。
「これだ! ホムンクルスの身体から核を取り除いて、国民の勇気の象徴だったジャンヌの記憶を取り戻せたら……元に戻せるかも!」
そのためにはまずホムンクルスの核の位置を知ることが必要だ。
たしか教会にまだホムンクルスの死体があったはず。
ようやく見つけた正解に、静紅は手を上げて喜んだ。
だったら明日の朝一で教会へ行こう。
頭のいいルナなら死体の解剖も可能のはず。
たったひとつ。その頭のいいルナが、悩みを克服出来ればの話だが……。
自室にてルナは、窓から見える星空を眺める。
「ルナは……姉さんみたいには……」
彼女はそう呟くと、頬を伝う涙を流した。
今日も読んでいただきありがとうです!
今回で中央図書館占拠作戦編は終わり、
次回から最終編・旗槍と聖女編をいくつかに分けて投稿していきます!
50話近くあるものを数話に分けるのってほんとに辛いですね、いつもの倍以上の体力を消費します笑
なので総集編のくせに長ぇとか言わないでください、何でもしますから(なんでもするとは言っていない
明日もよろしくです!




